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これまでの活動

研究者とフロントランナーの知見共有会
第2回「次世代からの知見提供」(SNSを活用した情報発信)を開催しました


 社会対話・協働推進オフィス(以下、対話オフィス)では、研究者と次世代の双方がお互いの活動にとって有益となる情報や知見を共有し合う「研究者とフロントランナー(次世代)の知見共有会」を実施しています。

 「生物多様性と気候変動」について研究者から話題提供を行った第1回(※注1)に続き、所内向けに行われた第2回を2024年2月13日にオンラインで行いました。

 今回は次世代からの知見提供ということで、フロントランナーの一人である一般社団法人NO YOUTH NO JAPAN代表理事の能條桃子さんが、若者や女性の政治参加の現状や、フォロワー数10万人を超えるインスタグラムなどSNSを活用した情報発信のコツについて話しました。

 会合全体のコーディネート、進行は次世代当事者でもある宮﨑紗矢香が担当しました。本記事では、当日の様子を進行に沿ってご紹介します。

※注1 第1回「研究者からの知見提供」(生物多様性、気候変動)は、こちら


オンラインで実施した会合の様子。能條さんがスライドの解説をしている

オンラインで実施した当日の様子


能條さんからの話題提供


 まず話題提供の冒頭では、能條さんが手がける3つの活動について紹介がありました。

 能條さんはこれまで、以下の3つの団体・プロジェクトを立ち上げ、社会に対し積極的に働きかけを行っています。


能條さんの活動を説明するスライド

若い世代の政治参加を促進する「NO YOUTH NO JAPAN」(2019年~)
  http://noyouthnojapan.org/

被選挙権年齢18歳の実現に向けた「立候補年齢引き下げプロジェクト」(2023年~)
  https://hikisage.jp/

20代・30代の女性やジェンダーマイノリティの地方議員を3割にするため、選挙への立候補を呼びかけ支援する「FIFTYS PROJECT」(2022年~)
  https://www.fiftysproject.com/


 ①「NO YOUTH NO JAPAN」は、能條さんが大学在学中の2019年に、20代の投票率が80%を超えるデンマークへ留学したことをきっかけに設立された団体です。

 政治参加における投票の重要性を伝え、若者の投票率を上げるべく活動してきましたが、政治の場に若い世代の代表がいなければ投票したいと思えないのでは?という問題意識が徐々に生まれ、2023年に②「立候補年齢引き下げプロジェクト」を立ち上げました。

 日本では、2016年に公職選挙法が改正され18歳から投票ができるようになりましたが、立候補年齢(被選挙権)は25歳(地方議会、衆議院)、30歳(参議院)と戦後から変わっていません。

 この立候補年齢が若者の政治参加を制限し、社会の一員として政治に関わることを難しくしているとして、同プロジェクトでは若い世代の声が届く社会に向けて国を相手取った「公共訴訟」(※注2)を起こしています。

※注2 能條さんが実施している公共訴訟については、こちら(外部リンク)


 ①②に加え、女性議員を増やすための取組みが③「FIFTYS PROJECT」です。

 全国に3万人いる地方議員のうち、地方議会の男女比率は男性85%、女性15%で、その中でも全体の56%は60代以上の男性、20代30代女性は1%未満であるという「不均衡」が存在しています。


高齢男性に占められた地方議会の割合を示したスライド
地方議会の女性比重は世代を超えて完全していないことを説明するスライド

 能條さんは、ジェンダー平等の問題は「君たちの世代が社会の中心になる頃には改善されている」「高齢男性が抜けたら解決する」と言われてきたがそれは誤解であり、地方議会の女性比率は世代を超えて改善していないと指摘します。

 また、投票に行った先に並んでいる顔ぶれの大半が中高年男性であることから、この顔ぶれが変わらない限り議論の中身も変わらないのではないかと考え、地方議員に立候補する20代・30代の女性(トランス女性を含む)やノンバイナリー、Xジェンダー等の方を増やす試みを進めています。


 これら3つの活動において、情報発信や仲間集めに活用されているのがインスタグラム、X(旧Twitter)などのSNSです。

 今回はフォロワー数10万人を超える「NO YOUTH NO JAPAN」(以下、NYNJ)のインスタグラムを例に、SNS活用のコツについて話題提供してもらいました。


能條さんの活動を説明するスライド

 能條さんがSNSの運営で心掛けていることは、選挙や政治、社会課題をわかりやすいグラフィックデザインで発信することです。

 SNSはコンテンツが良いから反応があるというより、タイミング・見た目が全てとのことで、どのテーマのウケがいいかはわからないため、初めのうちは多様なテーマを投稿してみることもおすすめとのことでした。

 そしてフォロワーには、「自分が気になる社会問題のテーマを一つ見つけてもらう」「すでに関心をもっているテーマのほかに、根底ではつながっている他の問題を知ってもらう」ことを促すようにしているそうです。

 また、SNSを使った活動の一例として、“SNSで広がっている声を署名として束ねて見せる“アクション(※注3)なども行っています。

※注3 2021年当時、東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の会長であった森喜朗氏が「女性が入っている会議は時間がかかる」と発言したことを受け、抗議署名15万筆を集め組織委員会に提出し、話題に。


 能條さんは、SNSはあくまで“手段”であり、仲間集めの場としていかに機能させるかという点が大事と話し、たとえば③「FIFTYS PROJECT」では、地方議会議員選挙への立候補を呼びかけるバナー(広告画像)をSNSで流して、立候補したい人を集めることができたら選挙活動へ誘導するというように、オンライン/オフラインをうまく使い分けて情報発信しているとのことでした。


能條さんの活動を説明するスライド

地方議会議員選挙への立候補を呼びかけるバナー



 では、具体的に「刺さる、広がるSNSアカウントのつくり方」とはどのようなものなのでしょうか。


能條さんの活動を説明するスライド

1.ターゲット、メッセージの明確化

 第一に“みんなに伝わってほしいものは広がらない“ため、伝える対象を具体的に特定するべきだといいます。

 NYNJではインスタグラムを始めた当初、「投票に行ったり行かなかったりするAさん」「投票には行くけど自分の意見やスタンスはないBさん」「政治に関心があるけど友達と政治の話ができないCさん」など架空のユーザー像を定めて、団体内部で情報発信をする際の目安にしていたそうです。

 ユーザー像を設定することで、例えばCさんのような人が「しれっと」シェアしやすい投稿(自分は投票するが周りの友人は投票しないような状況でシェアしても悪目立ちしない=シェアしたいと思ってもらえる投稿)を目指すなど、より拡散が望める具体的な内容を検討できます。ターゲットが気づいていないニーズを把握して、発信内容を設計することが大事とのことでした。


2.広がる動線を考える

 第二に、SNSはアカウントさえあれば不特定多数の人が見てくれる(アカウントの認知度が上がる)ものではなく、アカウントに来てもらうまでの入口をわかりやすくする工夫が不可欠だといいます。

 たとえば②「立候補年齢引き下げプロジェクト」では、能條さんら原告が裁判を行う様子がメディアに取り上げられ、その報道を見た人が自分で調べてインスタグラムにたどり着く、もしくは友達から聞いてたどり着くなどいくつかの経路があったそうで、情報が広がる動線を事前に考えておくことが重要と説明してくれました。


3.デザイン

 最後は、特にインスタグラムにおいて“要”ともなるデザインです。

 現代では日頃から商業デザインに触れる機会が多いため、デザインに力を入れない限り相手の目には入らず、競争にもならないという指摘がありました。

 またNYNJでは、どんな内容ならフォロワーがシェアしやすいかにも気を配っているといいます。

 若い人にとってSNSの世界は自分を表すものであることから、たとえ発信内容を支持していたり応援していたとしても、自分の“キャラクター”にあわないもの、周りから“意識高い”と思われてしまうものはシェアできない本音があるといいます。

 したがって、普段は投稿しないけれど、これはこういう理由があるからシェアするのだというような、できるだけ”言い訳“しやすいコンテンツやデザイン、切り口を意識しているといいます。

 ただの数値やデータだけではシェアしてもらう最後の一押しにならない、という厳しいご指摘もありました。



 最後に、能條さんから国立環境研究所に向けて、情報発信やアウトリーチに関する要望をいただきました。


能條さんの活動を説明するスライド

 NYNJほか、世の中に数あるSNSメディアは発信には長けている一方で、フォロワーに広げる情報は必ずしも自分たちだけで作れているわけではないといいます。そのため、発信したいと思っている人たちに国環研が使ってもらえる存在になれるよう、刺さる情報を正しく、迅速に、分かりやすくまとめてもらえたらと話してくれました。

 例として、研究成果に関するプレスリリースであれば、素材をそのまま出すのではなく、今の社会文脈の中でどんな価値があるのかという点を補足して出したり、その上で発信が得意な人たちと連携し、そのネットワークを活用できれば、自動的に情報は拡散されていくという助言をいただきました。


能條さんへの質疑応答


 話題提供の後は、国環研の研究者から能條さんへ様々な角度から質問が投げかけられました。一部、内容をご紹介します。

Q1.一見すると“意識高い”と思われがちな内容を、人が受け取りやすい形で届けている。意識していることは?

能條さん:それぞれ旗を立てるイメージでプロジェクトを立ち上げている。

 社会運動は自由でいいし、たくさん種類があった方が楽しい。NYNJのフォロワーにジェンダーの話題が響かないとしても、FIFTYS PROJECTを立ち上げたことで響く人もいたり、FIFTYS PROJECTにはピンとこなくても、立候補年齢引き下げプロジェクトは大事だと思う人もいる。

 “意識高い”と言われる若者も同じように見えて少しずつ違うので、全部のテーマを同じ団体でやるよりは同時多発的に動くようにしている。


Q2.“意識高い”と言われる若者の中にも、原発への賛否やコロナのマスク着用に関しては意見が対立するなど意見の幅があるように思うが、どのように対応しているか?

能條さん:NYNJのスタンスとして、見てくれている人に意見を強要せず、事実に基づくデータを示してその先の意見を持つのはあなた、という前提で投稿を作成している。

 たとえばイスラエルとパレスチナの投稿では、パレスチナの解放を求めるメッセージを発信したかったが、問題の背景がわからず宗教の戦争だと思っている人は遠ざかってしまうため、発信内容は妥協した。基本的に人権や平和をベースに考えており、日頃ニュースを追えていない人でもついていけるような内容を心掛けている。


Q3.NYNJの投稿はIPCCに関する内容などもしっかりしていて、クオリティコントロールができている印象がある。専門家と連携しながら活動していることはどのくらいあるか?

能條さん:修士号取得者や環境問題に詳しいデザイナーなど、プロではなくても相応の基礎知識をもつ人が団体の内部や知り合いに一定数いる。

 内部では把握していない分野の知識は専門家にフィードバックをもらうこともあるが、最新の情報を獲得するのが難しい部分もあり、専門家との連携は進めていきたい。


Q4.刺さる情報をつくるのは研究者の不得意なところだが、正しく迅速にわかりやすく伝える努力は必要だと感じた。社会文脈に照らして価値を示すという点について、国環研がすでに公開している情報の中で工夫した方がいいところがあれば聞きたい。

能條さん:たとえば、火山や地震に関する研究などは研究成果に応じてプレスリリースが出ると思うが、関連するニュースが出たときにもう一度発信するなど、社会の関心が向いているタイミングで情報を出す工夫があるといい。

 人の目が向きやすいときとそうでないときがあるので、研究のストックを順番に出していくというより、人々の生活にあわせてネタを出していく。人々の生活と研究成果をつなげる役割が期待される。


Q5.「立候補年齢引き下げプロジェクト」で、訴訟という手段を選んでいたのが興味深かった。日本でも訴訟はあるが、一般の人からしたらまだまだ遠い最終手段というイメージが強い。訴訟という手段を使うことにしたきっかけは?

能條さん:NYNJを立ち上げてから国会議員に会って話をする際、「立候補年齢を引き下げてほしい」と伝えてきたが議員の反応が悪かった。彼らにとっては優先順位が低く、25歳になったら立候補すればいい、引き下げをしたところで何のメリットがあるのかと言われ、被選挙権がある人たちの会議で決められているうちは変わらないと思った。

 裁判というものは本来、憲法の理念に照らして物事を判断してくれるものだが、その意味でもっと機能するべきだと思う。立法府がだめなら司法に訴える。

 同性婚の裁判なども違憲が出るかは別として、裁判があるだけでニュースになる。こういう問題があると知ってもらえる世論喚起になると思って、訴訟を起こした。


Q6.SNSの情報発信で気になることは、行動変容に結びつくのかどうかということ。実際に「いいね」をした人が、ジェンダーや環境問題に対して行動を起こしているのか?または、フォロワーに興味をもってもらうだけでOKなのか?

能條さん:まず1つ目のゴールとして、選挙や政治に対して関心をもっている人を孤独にせず、この問題が気になっているのは自分だけではないと実感してもらうことを大事にしている。

 その先の行動変容については、SNSは仲間集めの手段と考えているため幅広く全ての人を説得する場にはならない一方で、すでに関心を持っている人がコミュニティを形成してより深い行動を起こしていくことには活かされている実感がある。

 緊急避妊薬に関するパブリックコメントを集めていたときは、パブコメ史上最高の数が集まったが、それもSNSの呼びかけによるもの。派生的に色々なイベントも開かれていたが、ただ「いいね」を押すだけではない、SNSによる後押しの影響だと思う。


 最後に、能條さんから国環研への質問をいただき、対話オフィス代表の江守さんが回答しました。

能條さん:国環研はどういう情報を社会に広めたいのか?発信する人たちからの提言や質問を積極的に受け付けているのか、具体的に見てほしい情報源があるのか。NYNJなど発信者に期待していることはあるか?

江守:対話オフィスがX(旧ツイッター)を始めた当初は、積極的にフォロワーを増やそうとしていたためよく“ファクトチェック”を行っていた。真偽が不確かな情報を発信しているアカウントに対して、研究者の見解や論文を提示しながら事実を検証する作業だが、最近はできていない。

 一方で、コミュニケーションの専門家はファクトチェックが逆効果になることもあると言う。

 ファクトチェックを行うことでSNSを見る人は増えるが、かえって懐疑論者を増やすことにもなりかねず、何もしない方がいいという意見もある。分断を煽る側面もあるので悩ましい。

能條さん:個人的にファクトチェックは重要だと思う。コロナワクチンでは有効性が話題になったが、何を信じたらいいかわからないときに正式な見解が聞けると判断する材料になる。

 重要なのは、誰がファクトチェックをしているか。専門家の発言には信頼性があると思う。



 ここまで約1時間半にわたり、能條さんからSNS発信や日本の政治参加に関する知見を提供いただき、国環研にとっても貴重な情報をいただきました。

 能條さんからいただいた知見やノウハウをよい形で活かしていけるように、対話オフィスも改めてこれまでの活動を振り返り、今後改善していきたいと思います。


会を終えて


 「SNSは仲間集めの手段であり、タイミングが全て」という能條さんの言葉が印象的でした。

 現代において飛躍的に発達し私たちの生活を便利にした一方で、政治における大衆操作に利用されたり人格にも影響を及ぼしかねないSNSですが、そのツール特性を理解しながら、多様な若者に対して刺さる情報を正しく、迅速に、わかりやすくまとめるプロセスに多くの学びをもらいました。

 言うは易く行うは難しですが、着実に世の中に影響を与えながら、行動を起こしている姿には同世代ながら脱帽です。

 SNSはあくまでツールであり、それを駆使した先にあるのは若者や女性の政治参加、社会参画であるという大きなビジョンは、今の日本社会に必要不可欠な視点だと感じます。

 能條さん、この度は貴重なお話をありがとうございました!


 2回にわたり開催してきた「研究者とフロントランナーの知見共有会」。研究者と次世代それぞれの活動にとって、有意義かつ幅広い視点を養う議論ができたのではないかと感じています。

 今後も、専門家と社会の様々な主体が相互に学び合えるような対話の機会をつくっていきたいと思います。(終)


[掲載日:2024年4月10日]
構成、文・宮﨑 紗矢香(対話オフィス)

参考関連リンク

●対話オフィス「研究者とフロントランナーの知見共有会 第1回「研究者からの知見提供」(生物多様性、気候変動)」
https://taiwa.nies.go.jp/activity/knowledgesharing01.html

●CALL4「立候補年齢引き下げ訴訟」(外部リンク)
https://www.call4.jp/info.php?type=items&id=I0000117


対話オフィスの関連記事

●2022年度ステークホルダー対話会合「次世代の方々とのフォローアップ会合」
https://taiwa.nies.go.jp/activity/stakeholder2021.html

●2021年度ステークホルダー対話会合「次世代の方々と、これからの望ましい社会を考える」
https://taiwa.nies.go.jp/activity/stakeholder2021.html


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