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これまでの活動

ステークホルダー会合2021年度開催
「次世代の方々と、これからの望ましい社会を考える」

環境問題にアクションを起こしている次世代が参加


 国立環境研究所(国環研)は、当研究所の活動にかかわっておられたり、関心を持ってくださる方々と意見交換をするステークホルダー会合を開催してきました。

 2021年度は、環境問題などに対してアクションを起こしている次世代の方々と、望む社会像や活動を進める上での課題などについて、ディスカッションを行いました。

 お招きしたのは次の12名の方々です。(敬称略、所属等は2022年3月当時)

入江 遥斗 Design,more.創設者、大学2年
楜澤 哲 NPO法人IHRP理事長、大学1年
酒井 功雄 Fridays For Future Tokyo/Japan オーガナイザー、大学2年
坂本 亮 学生団体「やさしいせいふく」運営委員、高校3年
佐座 槙苗 一般社団法人SWiTCH 代表理事、大学院修士課程
新里 早映 土帰 doki Earthコミュニティマネージャー、大学院博士課程
新荘 直明 小布施町SDGs観光コーディネーター
須藤 あまね 環境パートナーシップオフィス次世代運営委員、地方創生SDGsユースアンバサダー、大学3年
田中 迅 国際学生会議所九州支部、Climate Youth Japan副代表、大学4年
中村 涼夏 Fridays For Future Kagoshima/Japan オーガナイザー、大学2年
能條 桃子 一般社団法人NO YOUTH NO JAPAN代表理事、大学院修士課程
原 有穂 Fridays For Future Yokosukaオーガナイザー、高校2年

 会合は2022年3月にオンラインで、2回に分けて開催しました。

 国環研からは、理事の森口 祐一、社会システム領域長(当時)の亀山 康子と、次世代当事者でもある対話オフィスの宮﨑紗矢香が参加し、対話オフィス代表の江守正多が進行をつとめました。


オンラインで実施した会合の様子。デスクトップ画面をキャプチャーした写真

2回に分けて行われたオンライン会合の様子


 議題は次の3つでした。

1.これからの社会がどうなることを望んでいますか。ご自身の活動はそれとどう関係していますか。

2.自分たちの活動を進めていく上での課題は何ですか。その課題にどう向き合っていますか。

3.望ましい社会の実現に向けて、国立環境研究所や環境研究者に望むことはありますか。

 当日お聞きしたご意見の一部を、議題に沿ってご紹介します。


議題1:これからの社会に望むことは?


 会合ではまず、どのような社会を目指して活動をしているのか、お聞きしました。

<望む社会像>

 まず、それぞれが望む社会として、気候変動などの環境問題にとどまらず、ジェンダー平等や教育の問題、地域格差など様々な社会的課題を挙げつつ、「多様性」を重視して誰もが生きやすい社会を目指したいというのが、多くの方に共通するご意見でした。

 また、今回の会合でお招きした方々を「環境問題に対してアクションしている次世代の方々」としましたが、当事者からは、年齢や属性で区分したり、 “意識高い系”などと括ることに違和感を抱くという声も。

 人を区分するような境界線をなくして、いろいろな人々が混ざり合い気軽に話し合えるようになってほしいというご意見や、市民の多様な声が政策に生かされることを望む声もありました。

 望む社会像に関していただいた主なご意見です。

・人を区分する境界線が溶け、色々な人たちが混ざるような社会を目指したい。

・苦しんでいる人たちが声を上げられる社会になってほしい。

・たくさん接点を持って、いざというときには助け合えるよう、「優しい態度」「優しい価値観」が広まるといい。

・社会問題や環境問題に学生時代に取り組んできても、ビジネスの立場ではできないと現実を突きつけられる。諦めずに行動することができる社会と、希望を持てる社会がいい。

・市民の声をもっとシステムに取り上げ、取り残された声がないか確認し、政策決定にも多様性を増やしていくことが重要。

・気候危機に対して何かできるわけではない、という認知バイアスがあるが、科学的な見方も取り込んで、「なんでこうなんだ」と話せる人が増える社会になってほしい。

・「きれいごと」を言っても鼻で笑われないような世界を作りたい。

<現代社会の課題>

 意見交換の中で、現代社会の課題も浮き彫りになりました。

 気候危機のように弱者に影響が及ぶ問題への関心や、社会でマイノリティの声が取り上げられないこと、東京中心の社会構造で地域格差があるなど、公平性の観点から問題意識をもっている方が多いことが分かりました。

 また、日本ではアクションを起こしている人が誹謗中傷に晒されることや、若い世代が声を上げづらい窮屈な社会であるなど、活動している当事者としてのリアルな苦悩もお聞きしました。

 社会の課題として特に共感を得ていたのが、日本における学校教育のありかたでした。

 高校の早い段階で進路や分野を絞ることの弊害や、イノベーションに必要な“行動力“が評価されづらいことが、問題として指摘されていました。

 社会の課題に関するご意見です。

・日本は窮屈で、空気を読んで外れないように生きているところがあり、社会問題に声を上げることにつながらない。

・政治と環境問題はつながっているが、政治の方はサイエンスが分からず、サイエンスの人たちは政治と距離が遠く、影響を与えられない。

・気候変動問題は、影響が不平等にあり、特にマイノリティに影響が訪れるにもかかわらず、特権性の高い人の声の方がより反映され、マイノリティの声は取り上げられないシステムになっている。

・日本の脱炭素化の流れは、産業・経済の流れが強く、文化的な反省があまりない。

・東京が中心という社会構造では今後日本は成り立たないので、地域が分散した形で格差やジェンダー、気候危機も含めて考えていけたら。

・教育でも分野分けを強制しすぎると、理系だから興味がない、文系だから分からなくてもいい、という考え方になる。

・今勉強していることが何につながるのかという教育が足りていない。環境に興味があっても、高校の時点で何を勉強すればいいか分からないまま進路選択をしなくてはならない。

・国内で足りていないのは行動力を評価すること。気候変動を止めるのであれば、イノベーションを早く起こさなければならず、柔軟な人材育成が必要。行動力を身に着ける環境づくりや教育を推進していくことが重要。


議題2:活動するうえでの課題


 次の議題では、自分たちの活動を進めるうえで課題だと感じていることや、それらを解決するためのアイデアや提案を聞き合いました。

<活動を広げる難しさ>

 課題として挙がったのは、活動を広げたり持続させていくことの難しさでした。

 広げるという点では、多くの人の関心や共感を得るための情報の伝え方の工夫について、情報をただ分かりやすく伝えるだけでなく、「かわいい」など共感を得やすい入り口を意識するとことや、選択肢を増やして提示するという提案、情報よりも感情が伝わることが重要という声もありました。

 また、科学に関わる問題は専門家でないと発言してはいけない雰囲気があるが、科学者に任せる部分とそうでない部分を分けて、自分たちも当事者として考える余地があると社会の人々に意義を感じてもらうことが大事だという指摘もあり、研究所のコミュニケーションのあり方についても考えさせられました。

 伝える、広げることに関してのご意見です。

・自分たちのように考えたり、生活できたら幸せになるという仮定で活動しているが、啓蒙されている側はどう感じるのかを意識しないといけない。

・情報が氾濫している時代だからこそ、どういう背景、属性を持った人が発言しているかを重視する。

・最初の入り口が「かわいい」「おしゃれ」と誰もが共感できるところから始まって、その先にメッセージが伝われば。

・科学的なデータを分かりやすく伝えている情報がなく、社会との架け橋のような存在が必要。

・同世代の触発としては、情報よりも感情が伝染するかが課題。何かがあったときに情報で後押しはされるが、直接的な原体験が重要。それが原体験だと誰かから言われる過程がないと原体験にはならず、どう気づくかは、話すしかない。

・自分の前に敷かれた選択肢が少ない状態だと、それを選び取るしかない。押しつけではなく、選択肢を増やして提示してあげ、その選択肢から何を選び取るかはその人次第。

・本人自身が価値に気づかない限りは本当の意味で変わらない。気づいてもらえるような経験をどう作るのかが課題。楽しいアクティビティで、考えながら現実と照らし合わせられる経験を広げるのも一つのやり方。

・SNSなどスケールが大きいと同じ価値観の人とだけで生きていけるので、違う価値観の人たちが議論しているけど平行線のままということがよくある。価値観をどうすり合わせていけるのか。

・ここまでは専門的知識だが、ここからは皆さんが考える余地がある部分だと、レクチャーしてもらえたら。科学者に任せるだけでなく、社会の一人としてやる意義があると思えるポイント。

<活動をする当事者の悩み>

 議題1でもあがったように、アクションを起こしている当事者だからこそ抱えている悩みについて、ここでも意見が続きました。

 活動することで周りの人たちと距離ができてしまうという悩みや、自分が恵まれた立場にいる“特権的”であることの罪悪感を持つという声も。

 活動をする人たちには批判を向けられ精神的に辛くなる経験が多いことから、アクティビストのメンタルケアの必要性や、活動する人たちが安心して集まることのできる場が欲しいという要望もありました。

 当事者の悩みとして挙がったご意見です。

・自分が恵まれていることに罪悪感を持つこともある。大学に進学することは特権的だが、それが、恵まれなかった人たちへの貢献になるという考えで自分を納得させている。

・同世代と何を話していいかわからないと感じることがある。引かれていることはないと思うが、友達が減った。

・怒りや不安で行動を起こす人は多いが、義務感での活動は続かないし、批判が重なるとクラッシュしてしまう。未来に対する希望へとモチベーションが変わる経験をできるといい。

・環境問題に取り組む人向けのメンタルケアや、対話をする場所を、国環研が主導して作ってくれることが理想。


議題3:国環研に望むこと


 最後に、国環研の研究活動や情報発信に関する要望をお聞きしました。

<国環研への要望>

 研究の面では、地域の文脈に紐づく情報の必要性や、自然観の見直しのような人文社会系の研究を望む声がありました。

 また、地域の実践や若者の提言を裏づけるような研究サポートをしてほしいという要望もお聞きしました。

 いろいろな人たちがフラットに話せる場の重要性や、対話することの意義など、私たち対話オフィスの活動に関わるご意見もありました。

 中でも、社会に広く環境問題を届けるために研究者の露出をもっと増やしてほしいという声がありました。

 研究所への要望として挙がったご意見です。

・文化や生活の中での自然観、たとえば、民話とか、地域の伝承のような、日常での自然についての研究に興味がある。

・海は気候変動でも重要だが、陸上しか注目が集まらず、ブルーカーボンにしても全く発信がない。

・公正な移行、ジャスト・トランジションの話をしてくれる研究者がいない。人文社会的な研究もお願いしたい。

・分野間(ジェンダーと気候変動とか)で起こる摩擦は何かについて、科学者の中で、建設的な議論をしてもらいたい。

・国環研が監修した気候変動のSFや、アニメや漫画とか、想像しやすく親しみやすい形に研究のアウトプットを変換していくことが重要。

・人材やノウハウが地域に不足している。知識を蓄積してきた研究機関が地域に対してサポートしてもらえると心強い。

・若い人たちの提言が認められるように、研究としての裏付けがあるといい。

・科学的な知見を持っている人もいれば、実践している人、興味はあるが何をしたらいいかわからない人、色々な世代や立場の人が混じり合って話し合える場があればいい。

・普遍的な正義や正解だけでは解決できない。みんなで対話して生まれた共通解でいこうというのは、対話の末にしか生まれてこない。

・オフィシャルではなくクローズドな、企業や官僚と若者が話す場を作ってもいい。相手にラベルを貼って見るのでなく、ゼロベースに話しができる。

・Twitterやネガティブ広告などの懐疑論に対し、このリソースのリンクを貼ればいい、というアセットを頂けるとありがたい。

・情報が届かないと、気候変動が後回しにされる対象であり続けることは変わらない。環境界隈で収まらない出演を増やしてほしい。


会合を終えて


 会合を終えた参加者からは、活動をしている同世代が話すことでつながりが生まれて心強い、いろいろな意見に触れて視野を広げる機会になったという感想や、研究機関に要望を伝える機会はありがたいという声が聞かれました。

 一方で、このような対話の場を閉じたものにするのではなく成果を外に見せていくことが重要との指摘や、若者に提言を求める動きは山ほどあるがほとんど実行されないので、きちんと生かしてほしいという苦言もありました。

 今回いただいたご意見を、今後の国環研の研究活動や、対話オフィスの活動にどう生かしていくかが、これからの宿題になります。

 対話オフィスとしては、より広く情報を届けるための工夫や、いろいろな人がフラットに話せる対話の場づくりなどについて具体的に検討し、活動に反映させていきたいと思います。

 最後に、国環研のスタッフとして会合に参加し、かつ、次世代当事者でもあるコミュニケーターの宮﨑さんのコメントです。

未来への分岐点が迫っています

 コロナ禍の前後で、日本ではSDGsが急速に広まり、Z世代と呼ばれる次世代への期待も高まっています。

 “意識の高い”若者たちは今や、あらゆる場所に招待され、「未来への提言」を求められ、マイクを向けられるたびに切実な声を伝えてきました。

 しかし、彼らの望む未来はいまだ訪れているようには思えません。

 変化はいつだって時間を要する。そんなことは承知の上で、それでも今、変化が必要だということを彼らは訴えています。そして、その変化なくしては、社会が掲げる“持続可能な未来”は到来しないのではないでしょうか。

 今回の会合でも、これからの社会への期待や要望、希望が数多く寄せられました。瑞々しいこれらの声を、活かすも放置するも、受け止める側次第です。

 「向き合うつもりがないなら、聞かないで」と言われないように、同じく若者の一人として、そして国環研のコミュニケーターの一人として、矛盾や葛藤を抱えながらも行動に移していきたいです。(終)


[掲載日:2022年9月13日]
構成、文・岩崎 茜(対話オフィス)

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