図解でわかる!環境問題
はじめに
みなさんは、「環境問題」と聞いて何を思いますか?
「難しそう」「よく分からない」
環境問題は、私たちの生活や仕事に深く関係しています。そして、その問題が引き起こす被害をどれだけ小さくできるかも、私たち次第です。そこで、環境問題の本質をよりよく知ってもらうための図解をしてみました。国立環境研究所とビジネス図解研究所のコラボした成果です。
目次
1.環境問題図解とは2.共通図解
3.問題別図解
4.『環境問題図解』のダウンロード
5.関連リンク
6.本ページについて
1.環境問題図解とは
環境問題図解とは何でしょうか。環境問題が、わたしたちとどのようにかかわっているのかを直観的に知っていただくための図解です。世の中の何がどう関係して環境問題が起きるのか、どのように解決に向かっていくのかを図で表します。
環境問題の図解は、2つのレイヤー(階層)で構成されています。
上のレイヤーは、すべての環境問題に共通して使える枠組みである「共通図解」です。みなさんには、この共通図解で図のルールを理解していただきます。
下のレイヤーは、具体的に個別の環境問題別を図解する「問題別図解」です。後ほど、公害、気候変動、資源問題、の3つの図解を見ていただきます。いずれも共通図解の枠組みを使って図解がされます。また、この共通図解を使って、他の環境問題を図解いただくこともできます。
2.共通図解
それでは、早速、共通図解に入ってみましょう。
次の図が、このあと出てくるすべての図の基本です。「企業」「個人」とありますが、これは汚染者が企業(あるいは生産者)、被害者が個人(あるいは消費者)の場合を例としています。環境問題ごとに、具体的なプレーヤーは少し異なります。
さて、図を分解して、3つの要素にわけて見ていきましょう。
まず縦方向。環境問題は、人間の経済活動が自然界になんらかの環境負荷をかけることによって発生します。この状態を人間社会が問題だと認識し、状態の改善に向けて動き出すことで、環境の保全活動が実現していきます。
次に上半分のループについて。これは、経済活動を表すループです。
企業は、環境から資源をとってきて、モノを生産します。個人は、生産されたモノを消費し、ごみなどを環境中に廃棄します。モノを欲しい個人が増えれば増えるほど、モノに対する需要が高まり、企業はより多くの資源を消費してモノを生産することになります。企業の利益追求と個人の消費意欲がループをどんどん大きく膨らませて、環境への負荷をどんどん高めていくのです。
最後に下半分のループです。こちらは、環境対策を表すループです。
環境問題は、人の健康や生活環境、自然環境を悪化させます。これをやめてほしいと思う人が増えると、国や自治体などの行政官庁、そしてメディアやNGOなどの社会に訴えます。問題を改善すべきと判断されれば、企業に対してなんらかの働きかけをしていくことになります。それは規制や行政指導、課税、補助金、企業の自主的取り組みなど多様な種類がありえます。このような働きかけによって、環境が回復・保全されるようになり、新たな環境技術も開発されていきます。
このように、企業と個人は、さきほどの図でみてきた2つのループを通じて、経済・環境・社会すべてに関係しているのです。
さて、それでは、環境問題は、どのように発生し、どのように収束に向かうのでしょうか。これを5つのフェーズ(段階)で表現します。真ん中の色は信号と同じです。青は環境が良い状態、黄は少し悪くなっている状態、赤がかなり悪化した状態を意味します。
すべての環境問題が、最後にめでたく青信号に戻れているわけではありません。赤信号の状態にあるにもかかわらず、社会の保全活動が不十分なために環境が破綻してしまうパターン(例:生物種の絶滅)や、保全活動をした結果、少しは改善できたものの、まだまだ青信号とはいえない黄色の状態のまま続くパターン(例:河川が汚れたままとなる)があります。
逆に、理想的なパターンとして、5つのフェーズのすべてを通らずに青信号に至る方法があります。
5つのフェーズは、環境が赤信号になってから対策を取り始めるため、いわば事後的な対応です。しかし、黄色い時点で人々が高い関心を持って対応を求め、社会が行動できれば、環境の悪化が小さいうちに、元通りにできます。
さらには、まだ青信号の時点から、いまの人間活動を続けた場合に環境が悪化することを将来予測して、社会がその予測にしたがって適切に行動できれば、被害を未然に防止できます。これが最も被害を引き起こさないパターンといえます。かつて先進国が経験した公害と同じ状態にならないように、途上国が先進国並みの環境対策を導入することがありますが、これも未然防止パターンといえるでしょう。
続いて、5つのフェーズについて、最初に紹介した図を1枚ずつ使って説明します。図解の見方は次のとおりです。
1つ目の初期段階では、経済活動が順調に推移し、個人の生活がゆたかになる局面を描いています。この時点では、経済は環境に負荷を与えていないことに注目してください。
2つ目の進行段階では、経済活動(生産と消費)が活性化し、環境に負荷を与え始めます。
環境の悪化は、個人に対して悪影響を与えます。例えば、工場から汚い煙が大気中に多く排出されれば、空気が汚れ、住民の呼吸器官が害されます。この時点ではまだ、社会から環境への「保全」矢印が出ていません。
3つ目の対策段階では、経済活動がさらに増大し、環境への負荷をさらに高めていきます。
個人に対する被害は、許容限度を超え、改善を求めて訴える行動を起こします。問題の改善に向けて国や自治体、メディア、NGO、国際機関などが動き出し、企業に働きかけます。ここで、社会から環境への「保全」矢印が出てきました。
4つ目の抑制段階では、社会による保全活動によって生産と消費の適正化が行われ、悪化した環境を回復させていきます。
生産の適正化には、さまざまな方法が考えられます。単純に生産量を減らしたり、捕獲量を減らす(例えばマグロなどの漁業資源)といった対応もありえますし、新たな技術の開発によって、資源をあまり使わなくても今までどおり生産できるようになることもあります。
5つ目の収束段階では、経済活動が完全に新しい種類の経済ループに移行しています。
ここでは、経済活動は続いていますが、環境に負荷を与えるのではなく、環境に配慮した経済活動になっています。これまでの一連の変化が、個人の消費行動も変化させています。例えば、エコなものを買う、といった考え方です。これも、環境配慮型の経済の重要なポイントです。
5つのフェーズを、社会・環境・経済の関係でまとめるとこうなります。
以上で、共通図解の部分は終了です。ここからは、具体的な環境問題を図解してみましょう。
3.問題別図解
公害
公害は、地域的な水・大気・土壌の汚染(正確には、水の汚染は「水質汚濁」といいます)や騒音、振動、悪臭、地盤沈下などのことで、工業化や都市化に伴って人の健康や生活環境に関わる被害が拡大しました。日本では戦前にもこのような問題は引き起こされていましたが、1960年代に入って、深刻化し対策がとられていきました(なお、途上国においては現在でも公害が社会問題となっています)。
この図解では、水、大気、土壌の汚染に焦点を絞り、加害者が企業、被害者が住民という場合を示します(例えば、自動車排ガスによる大気汚染は、一般市民も加害者です)。
技術発展により工業化などが進むと、大量の資源が投入され、生産と消費がより効率的に大規模に行われるようになります。多くの製品を人々が享受でき、雇用も確保されることから、地域の経済は発展し、市民の生活も豊かになっていきます。
豊かになる、利益を得るといった人々や、企業のニーズや願望によって生産と消費のループが強化され、地域の生産活動がどんどん拡大していくと、汚染物質を含む排水や排ガス、廃棄物の量が増大していきます。
地域の環境はこれらを分解するなどして自然浄化するはたらきがあるのですが、自然が浄化する速度を超えて汚染物質の排出が進むようになると、地域環境は汚染され、住民に健康被害が出始めます。
住民らの健康被害などが深刻化すると、住民らはその被害を訴えるようになります。直接的に企業を訴えたり、行政や裁判所に訴えたりすることが行われます。
行政は問題を起こしている企業等に対して規制などを行って、環境汚染を食い止めようとします。また、企業のなかには、自発的に環境対策を行うところもでてきます。
環境対策によって、生産活動が変わっていきます。汚染物質を排出しないように、排ガスや排水を浄化してから環境中に排出したりするようになります。また、公害を引き起こす製品、例えば、有害化学物質やスパイクタイヤなどの代替品が開発されることもあります。
消費活動も変化して、問題がある製品が使われなくなります。このような取り組みによって環境負荷が軽減されて、新たな環境汚染が回避されます。
また、地域環境を直接的に回復すること、例えば、重金属や油で汚染された土壌の浄化なども行われます。健康被害を受けた住民は、損害賠償などを通じて救済されます。
このような環境対策が功を奏すると、経済活動は環境に配慮したものとなり、地域の環境が保全され続けるようになります。
以上、5つのフェーズをまとめて公害の基本構造を図解すると、次の図のようになります。上半分のループによる環境負荷の発生と下半分のループによる環境保全のバランスで、地域の良好な環境が保たれるかが決まります。
しかしながら、公害対策が失敗することもあります。
歴史的にみれば、企業城下町と呼ばれるような地域が典型例ですが、汚染企業と自治体が公害問題よりも地域の経済成長を優先させたり、企業の利益を優先させるなどして、住民からの訴えを無視することが起こりました。また、被害と原因の因果関係を立証するのに時間がかかったり、立証責任を被害側に押し付けたりすることでも対策が遅れます。
このようなことが起こると、経済活動は環境に配慮したものに変化せず、地域の環境汚染ならびに住民の健康被害などが継続してしまいます。
気候変動
気候変動問題は、地球温暖化問題ともいわれます。人間の活動により温室効果ガスが大量に大気中に放出されることで、気温が上昇し、地球が温暖化すると、世界各地の気候が変わり、海面上昇や異常気象による被害などがあちこちで起きる問題です。
温室効果ガスの中には、メタンや亜酸化窒素、フロンなどいろいろありますが、この図解では、主要な温室効果ガスである二酸化炭素だけに焦点を絞ります。
大気中に排出される二酸化炭素の多くは、石炭や石油などの化石燃料を燃やしてエネルギーを利用することで生じています。エネルギーは企業だけでなく市民ひとりひとりの生活でも使われるため、気候変動の経済ループでは、企業も個人もみな問題の原因を作り出している当事者であると言えます。
人間が石炭を本格的に使い始めたのは、18世紀の産業革命からです。その後、急激に消費量が増え、気温上昇が観測されるようになりました。科学者たちは「このままの状態を続けていると、気温上昇がさらに進み、世界各地で猛暑や集中豪雨などの被害が出るだろう」と予測しましたが、「そんなの嘘ではないか」といった声もあり、対策は後手に回りました。
二酸化炭素の排出量は年々増加し、それに伴って世界各地でさまざまな異常気象が確実に増えてきました。そして、異常気象と二酸化炭素排出との関係を疑っていた声もほとんど聞かれなくなりました。国連気候変動枠組条約の下、2015年にはパリ協定が採択され、国際的な取り組みが進められることになっています。
しかし、現時点では対策はまだ不十分で、このままだと赤信号のまま「破綻」パターンともなりえる状況です。
もし、今後国際社会が本気で取り組み、無事に二酸化炭素排出量を大幅に減らすことができたならば、気温上昇のスピードは減退し、小康状態になります。
二酸化炭素排出量を大幅に減らすためには、エネルギーの大半を化石燃料以外のエネルギー源でまかなう必要があります。森林面積を拡大し、二酸化炭素の吸収量を増やすことも重要な手段です。大気の気温は大気中の二酸化炭素濃度で決まるため、排出量よりも吸収量の多い「排出実質ゼロあるいはマイナス」の状態にし、濃度自体を下げていかなければ気温が下がることはありません。
つまり、少なくとも今私たちが生きている間に、50年ほど前の気温に戻すことができない状態に至ってしまっているのです。
将来、技術開発がさらに進み、大気中の二酸化炭素の濃度を減らすことができるようになれば、気候変動問題は本格的に収束したといえるでしょう。
しかし、残念ながら、現段階ではそのような将来は見通せていません。
以上、5つのフェーズをまとめて気候変動の基本構造を図解すると、次の図のようになります。
対策がうまく進まない場合は、この図のようになります。現在の世界の状況はまさしくこのような状態です。対策は取られ始めていますが、未だに二酸化炭素排出量は増え続けています。
最近「気候危機」と叫ばれているのは、この図で示す状態に危機感を感じる人が増えているからです。
資源問題
資源とは、社会経済にとって有用なもの、という意味で使われます。ここでは、自然から得られる資源、その中でも私たちにとって身近な存在である森林を取り上げます。化石燃料や鉱物資源と違って、森林や農地や水産資源は、適切なスピードで利用すれば再生して繰り返し使えることから、再生可能資源と言われます。以下では、現代の資本主義経済で見られる森林資源の問題を念頭に置き、近代以前の森林資源の問題や過少利用による問題(里地里山の問題)は扱わないことにします。
森林は、私たちにどう関わるでしょうか?
第一に、企業が森林を伐採し、住宅向けの木材や紙・パルプ製品を作ったり、燃料として使ったりします。こうして作られた製品やエネルギーが市場で売買され、消費者が森林の恩恵を受けます。第二に、消費者は森林から直接恩恵を受けています。森林があることできれいな水源や多様な生物が保たれ、森林が織りなすさまざまな景観や森林浴などのレクリエーション活動を楽しむことができます。また、森林は大気の湿度や降雨を調節したり、大気中の二酸化炭素を中に閉じ込めてくれます。こうした自然がもたらす恩恵は「生態系サービス」と呼ばれています。
なお、上記の企業活動のうち、直接的に森林を減少をさせているのは林業ですが、実は、それ以外の原因でも森林が減少しています。最近の研究によると、世界での森林破壊の原因は、林業の他に、商品作物の栽培、農業、山火事があり、それぞれ約4分の1ずつを占めるとされています。
企業が森林を伐採する際、通常は森林を管理する政府から許可を取って伐採を行いますが、様々なコストが発生します。ところがそのコストが、木材や製品の値段と比べて安ければ、どんどんと森林を切るようになります。すると森林資源が育つスピードを超えて、伐採が行われるようになります。その結果、森林資源が希少になる(=みんなが欲しい量に比べて少なくなる)ため、伐採コストが上がり、結果として市場経済で取引される木材や紙・パルプ製品、燃料の値段が上がります。
また、森林が減れば、私たちが自然から直接受ける恩恵も減っていきますし、森林がなくなった山では地滑りが起きやすくなって自然災害などを引き起こします。
森林が減り、森林自然の恩恵が減ったことが明らかになると、消費者はそのことを社会(メディア、政府・国際機関、NGOなど)に訴えはじめたりします。
こうした声により、政府は伐採許可や割り当てをより厳しくするようになります。これらの動きを受けて、企業自ら森林の植林を行ったり、樹齢に合わせたタイミングで伐採を行ったり、伐採地を広げたりなど、森林をより適正に管理するようになっていきます。
こうした動きがさらに進むと、より強い規制や、森林環境税、生態系サービスへの支払いといった、さまざまな政策がとられるようになります。また、消費者自らがNGOや自治体の活動を通じて森林を保全する動きに参加することもみられるようになります。こうして、社会経済全体で森林の劣化を抑える動きが活発化していきます。
最終的には、企業は森林の再生スピードを上回らない程度に伐採を行うため、森林の減少は止まります。製品やエネルギーとなった後、市場を通じて消費者がそれらを購入することで、森林自然の恩恵も受け続けることができます。
なお、最近の日本ではむしろ林業が衰退し、森林が使われないために適正な維持管理がされないという新たな問題が指摘されています。量的な問題ではなく、良質な森林をどう維持するかという質の問題に移ってきているのです。
以上、5つのフェーズをまとめて資源問題の基本構造を図解すると、次の図のようになります。
森林資源の保全が失敗する場合もあります。「進行段階」では、森林を伐採する利益が減ることが、伐採が減ることの原因の一つでした。ところが実際には、森林伐採をしても伐採コストが上がって利益が減るとは限りません。具体的には、海外でコストの安い森林を伐採したり、政府が伐採許可を過剰に与えたり、政府の見られないところで違法に森林を伐採したりといったことがあります。まだまだたくさんの森林が残されていることから、無限にあるように思われて伐採コストが十分に上がらず、伐採の歯止めにならない場合があり、最悪の場合には、森林資源が使い尽くされてしまいます。
4.『環境問題図解』のダウンロード
ご紹介した『環境問題図解』は、パワーポイントファイル(pptx形式)とPDFファイルをダウンロードできます。ご利用用途に応じて、ぜひご活用ください。
※クリエイティブコモンズにしておりますので、複製や改変しての利用が可能です。詳しくはこちら(外部リンク)。
5.関連リンク
●図解総研(旧ビジネス図解研究所)のNOTE記事(外部リンク)
https://note.com/bizgram/n/n4fb8a3e399ea
●環境問題図解の報道発表[2020年1月17日]
http://www.nies.go.jp/whatsnew/20200117/20200117.html
●図解を制作した研究者とデザイナーが語る、完成までのストーリーとは?
「“複雑”をどこまでシンプルに?―『環境問題図解』の作り手が対談」
https://taiwa.nies.go.jp/colum/kankyozukai_taidan.html
6.本ページについて
図解制作チーム
国立環境研究所 田崎 智宏
亀山 康子
山口 臨太郎
図解総研 近藤 哲朗(チャーリー)
(旧ビジネス図解研究所) 沖山 誠(きょん)
大下 文輔
高橋 尋美
小暮 咲
研究に関する問い合わせ
国立環境研究所 資源循環・廃棄物研究センター循環型社会システム研究室 田崎智宏室長
tasaki.tomohiro(末尾に@nies.go.jpをつけてください)
029-850-2988
[掲載日:2020年1月17日 ※2020年6月15日に一部修正]