1. ホーム>
  2. コラム一覧>
  3. 家電やプラスチックごみについて考えよう
  4.  

コラム一覧

リサイクルの現場が様変わり
「家電やプラスチックごみについて考えよう」

はじめに

 ごみリサイクルの現場が今年、注目を集めています。

 エアコンなどの家電やペットボトルなどのプラスチックごみなど、廃棄物にはそれぞれのリサイクルや処理について法律で決められている一方で、自治体などの許可を得ていない不用品回収業者などによる非正規ルートでの処理も根強いのが現実でした。

 しかし、この非正規ルートが生き延びられなくなるかもしれないというのです。理由は、日本での廃棄物処理法の改正と、中国の資源ごみ輸入規制です。

 非正規ルートでの廃棄物処理は、有害物質のたれ流しや不法投棄につながる場合が少なくなく、問題になってきました。非正規ルートが姿を消すことは、それらの問題の解決につながります。

 ただ、非正規ルートとはいえ、そこで処分されてきた廃棄物があるのは事実で、その廃棄物を今後どのように処分していくのか、新たな課題が浮上してくることになりそうです。

 廃棄物・スクラップ貿易に詳しい寺園淳・副センター長(資源循環・廃棄物研究センター)に話をきき、対話オフィスが記事をまとめました。

廃棄物置き場の様子

引っ越し業者のエアコン横流し

 6月12日、大手引っ越し業者の「サカイ引越センター」が環境省と経済産業省の摘発を受けました。

 奈良県内の支社2か所が2013年から約5年にわたり、引っ越しの際に引き取ったエアコン約1000台を、非正規業者(メーカー以外の業者。自治体等からの許可を得ていない回収業者や、いわゆるスクラップヤード業者)に横流し・売り渡して、代金を受け取っていたというのです。

 サカイ引越センターは、エアコン販売もしていることから小売業者と位置付けられています。

 家電リサイクル法では、小売業者は引き取ったエアコンはメーカーなどに引き渡さねばならず、小売業もしている引っ越し業者のエアコン横流しは同法違反です。

本来は、分解・選別し、リサイクル

 この事件で浮き彫りになったのは、非正規業者の存在です。

 家電リサイクル法は、エアコンとともにテレビ、冷蔵庫、洗濯機が対象で、これらの家電は、販売店や自治体等から許可を得た正規の回収業者などが引き取り、メーカーなどに引き渡すのが決まりです。

 家電リサイクル法にもとづいての処分であれば、廃棄され回収された製品は分解、選別などの処理を経て、材料や部品に仕分けされて、売却・再利用されます。

 ところが、非正規業者はこれらの家電を引き受けても、メーカーなどに渡しません。

 非正規業者は「無料で引き取ります」などとスピーカーで宣伝しながら住宅街を車で巡回したり、郵便受けにチラシを入れたり、またインターネットでPRしたりもしています。

 一見、便利そうなのですが、環境省は「無許可の回収業者を利用しないでください」と注意(※注1)を呼びかけています。

※注1 環境省による呼びかけとは?
家電の処分は自治体ごとにルールを定めており、市区町村の許可や委託を得ている回収業者は引き取り可能。詳細はこちら(外部リンク)

無許可の回収業者への注意を呼び掛けるポスター

「無許可」回収業者の注意を呼び掛ける環境省の案内。

雑品スクラップの山積みで大規模火災

 さて、非正規業者による処分にはどういった問題点があるのでしょうか?そのひとつが集めた家電の処分の仕方です。

 非正規業者の場合、受け取った製品は、リユース(再使用)目的に海外へ輸出するのでなければ、様々な種類のものを仕分けせずに、まとめておいて、海外(主に中国)の業者に売り渡します。

 海外の買い取り業者は、受け取った製品を自ら分解・解体して鉄、銅、アルミなどに分けて、売却します。エアコンの場合は、フロンガス(地球温暖化をもたらす温室効果ガスの一種)も適切に回収・処理されずに大気に放出されてしまいます。

 この、非正規業者が(日本側で)仕分けをせずにまとめた状態のものを、雑品スクラップと呼んでいます。

雑品スクラップの写真

雑品スクラップ(2012年8月、大阪で撮影)。

 雑品スクラップという言葉は2014年ごろに環境省が使い始めた用語で、鉄、プラスチックや家電などが仕分けされないまま集められているもので、「金属スクラップ」「ミックスメタル」などと呼ばれることもあります。

 雑品スクラップには、次の3つの問題があります。

①有害物質管理が不備で輸出先で環境汚染
鉛など有害物質を含んでいるため、輸出先(中国など)の業者が解体などをするときに有害物質が環境を汚染する。

②本来、日本国内で回収すべき資源が流出
正規ルートであれば日本国内で活用できる資源が海外に流れてしまう。

③大規模火災
集めたスクラップは(日本国内の港周辺などで)山積みの状態で置きっぱなしにされ、時に大規模な火災が発生する。消火に長時間かかり、原因不明なことが多いという問題も。

尼崎港での火災の写真

尼崎港での火災(2017年5月、兵庫県消防防災航空隊提供)。

雑品スクラップ、扱いに新たな基準設ける

 雑品スクラップは一見、ごみに見えるのですが、廃棄物処理法の対象として規制するのも難しい存在でした。廃棄物処理法は、廃棄物の処分の仕方を決めた法律ですが、同法で定めた廃棄物は無価物(値段のつかないもの、不要品)が対象です。

 一方で、雑品スクラップは、「海外の業者が買い取る」ために有価物(つまり値段のついたもの)であり、廃棄物ではない、というわけです。

 その結果、上記のような問題が発生しても、廃棄物処理法では、業者に対する雑品スクラップの管理についての指導はできませんでした。

 そこで、廃棄物処理法が改正され「有害使用済機器」の項目を新設。2018年4月から、家電リサイクル法と小型家電リサイクル法で定められた計32品目を「有害使用済機器」に指定しました。

 これらの品目については、都道府県への届出義務や保管方法などについての基準を設け、保管している業者を指導できるようにしたのです。

 この措置によって、非正規業者は、雑品スクラップについて、これまでは山積みのままでよかったのに、保管方法を整えるためのコストが必要になります。その結果、利益が減り、非正規業者の廃業が相次ぐ可能性があります。

 先のサカイ引越センターの例でいえば、横流し先の業者がいなくなるかもしれないということです。

 雑品スクラップの量は、中国向けだけで年間約100万トン以上とされていますが、この量が今後どう処理されるか、注目されます。

「資源ごみ輸入大国」中国が方針転換

 そして、リサイクルの現場の様変わりをもたらしている、もう一つの原因が、中国の資源ごみ輸入規制です。中国政府が2017年7月に規制方針を明らかにし、今年1月から実施されています。

 今年から輸入禁止になったのは、4種類24品目。4種類は、生活現場から出る廃プラスチック、古紙(未選別のもの)、繊維系廃棄物、鉄鋼用添加剤などです。

 中国はこれまで「資源ごみ輸入大国」と言われてきました。中国国内の業者が、世界各国から資源ごみを輸入し、リサイクルして、製品を製造してきたのです。

 輸入業者が扱う資源ごみには、先に説明した雑品スクラップのほか、ペットボトルなどの廃プラスチックなど様々なものがありますが、例えば、廃プラスチックの場合、破砕し加工して、布団などにつめる中綿や繊維製品などとして出荷する、という具合です。

 国連資料などによると、世界各国が輸出している廃プラスチックの約7割を中国(香港経由含む)が輸入しているといわれます。

 しかし、海外からの輸入される資源ごみ(中国では『洋ごみ』と呼ばれています)には、異物や汚れたものが混ざっている場合や鉛などの有害物質が含まれている場合があり、リサイクルの際に環境汚染につながる問題が再三指摘されてきました。

 日本の雑品スクラップについての説明で指摘したのと同様の問題です。

雑品スクラップの解体現場の写真

雑品スクラップの解体現場(2010年1月、中国・浙江省で撮影)。

健康被害懸念し、「洋ごみ禁止」

 リサイクルに伴う環境汚染により、地域住民の健康被害も懸念されるようになり、中国政府が「洋ごみ禁止」に大幅に強化するようになったのです。

 今年の禁止措置で、日本で影響が目立つのは、ペットボトルなどの廃プラスチックです。中国(香港を含む)への輸出は年間約130万トン(2016年)をいかに処理するかが課題となります。

 そして雑品スクラップも、今年の禁止措置に伴う影響を受けています。

 非正規ルートでの廃棄物の処分は、日本国内(廃棄物処理法の改正)と中国(受け入れ禁止措置)双方の措置のために、極めて困難になりつつあります。

 非正規業者は「無料で引き取ります」などとスピーカーで宣伝しながら住宅街を車で巡回したり、郵便受けにチラシを入れたり、またインターネットでPRしたりもしています。

 環境省が6月7日に発表した2017年度の家電リサイクル法の実績によると、正規ルートでの処分量が増加しています。同省は「中国の受け入れ禁止で、正規ルートでの処分に移ってきた」と分析(※注2)しています。

※注2 環境省による報道発表資料はこちら(外部リンク)

日本国内でのリサイクル施設充実を

 では、これまで非正規ルートなどで処理されたり、中国が「洋ごみ」として日本から受け入れたりしてきた廃プラスチックや雑品スクラップなどはどこに行くのでしょうか。

 ひとつは、中国以外の国(ベトナムやインドネシアなど)への輸出の動きがありますが、中国が引き受けていた量には届かないといわれています。

 もうひとつは、日本国内でのリサイクル施設を増やしていく方策です。

 非正規ルートが存在してきた理由の一つには、コストが低いことがありました。国内施設の経費が高いままだと、新たな非正規ルートが現れる可能性があります。今後は、国内施設のリサイクルコストを下げていくことも必要とされています。

 また、近年は海洋ごみ問題も議論されています。マイクロプラスチックと呼ばれる、5ミリメートル以下の小さなプラスチックのごみのことです。

 ペットボトルやレジ袋などの廃プラスチックが海や川に捨てられ、波や紫外線にさらされて粉々になり、結果として世界中の海に大量に投棄され、生態系への悪影響が問題になっているのです。

 中国の「洋ごみ禁止」の方針が、海洋ごみにどう影響するのか、目が離せません。(終)


[掲載日:2018年7月26日]
取材、写真協力:国立環境研究所 資源循環・廃棄物研究センター 寺園 淳 副センター長
取材、構成、文・冨永伸夫(対話オフィス)

参考関連リンク

●環境省「サカイ引越センターへの摘発」(外部リンク)
http://www.env.go.jp/press/105581.html

●環境省「『無許可』の廃棄物回収業者への呼びかけ」(外部リンク)
http://www.env.go.jp/recycle/kaden/tv-recycle/qa.html

●環境省「平成29年度における家電リサイクル実績について」(外部リンク)
http://www.env.go.jp/press/105550.html

対話オフィスの関連記事

●知ってほしい、リサイクルとごみのこと
https://taiwa.nies.go.jp/colum/recycling.html

●ペットボトルの素朴な疑問を解説!「キャップのリングははずさなくてもいいの?」
https://taiwa.nies.go.jp/colum/petbottlefuta.html


ホーム > コラム一覧