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『気候危機』―パリ協定のゆくえ[前編]
「COP25、ここがみどころ」

はじめに

 気候変動の対策を話し合う国際的な会議「COP25」(※注1)が、12月2日からスペインの首都マドリードで開催されます。

 強い台風や熱波など異常気象が世界各地でこの数年続き、日本でもこの秋は台風や豪雨によって多くの犠牲者が出ました。気候変動(あるいは地球温暖化)はいまや、気候危機と呼ばれています。

 こうしたなかで開催されるCOP25では、何が話し合われるのでしょうか。

 そのポイントと背景について、気候変動の国際交渉を長年フォローしている亀山康子・副センター長(社会環境システム研究センター)に聞きました。

 最初に、COP25のポイントをまとめてみました。

【COP25のポイント】
・COP25に残された宿題が「市場メカニズム」のルール。
・「市場メカニズム」が解決されないと、日本の努力が水の泡に。
・2020年からパリ協定の運用開始。直前のCOP25で温暖化対策にはずみを。

※注1 COP25の公式ホームページはこちら(外部リンク)


COP25の宿題

 COP25は、直前になってアクシデントに見舞われました。チリの首都サンディアゴが開催地だったのですが、チリ政府が開催を断念。反政府デモなどによる混乱が原因です。

 代わりに開催地に決まったのが、スペインの首都マドリード。開催地はスペインですが、COP25の議長国はチリのままで、運用されます。

 COPとは、気候変動枠組条約締約国会議のこと。COP25は25回目になります。

 COP21(2015年、パリ)で2020年からの気候変動対策の国際的枠組みであるパリ協定を合意、2016年11月4日に要件を満たし発効しました。

 パリ協定は「地球の平均気温の上昇を、産業革命時(18世紀中盤)に比べて今世紀末に2℃より十分低く、できれば1.5℃にとどめる」との長期目標などは定めていますが、パリ協定で認められた諸手続きを実施するために必要な詳細ルールは定めていませんでした。

 そのため、COP22(2016年)からはパリ協定のルール作りに取り組み、昨年のCOP24では100頁超にわたる実施指針が採択され、パリ協定は予定通り2020年からスタートする準備が整いました。(※注2)

 しかし、COP24では、加盟国の意見がまとまらず、未採択のままになっている案件があります。それが、「市場メカニズム」のルールです。

※注2 COP24についてはこちらもご覧ください。

昨年のCOP24の会場の写真

昨年、ポーランドで開催されたCOP24の様子。

市場メカニズムと日本のJCM

 パリ協定では、複数の国で協力して、CO2などの温室効果ガスの削減を実施した場合の取り決め(協力的アプローチ/第6条)があります。

 その削減分を国同士で取引できるようにしようという仕組み(市場メカニズム)ですが、削減分が複数の国で重複してカウントしないよう厳格なルールが必要です。

 この点について、様々な意見があり、昨年のCOP24ではまとまらず、この合意成立が、COP25が成功かどうかの目安です。

 「市場メカニズム」の合意は、日本にとって重要です。

 というのも日本政府は、「市場メカニズム」にあたる独自の制度「二国間クレジット制度」(Joint Crediting Mechanism : JCM)を2013年に開始、モンゴルやバングラデシュなど17か国(2019年6月現在)と署名を交わし、相手国の削減分を日本側にも取り込めることを目指しています。

 しかし、「市場メカニズム」ルールがCOPで合意されなければ、日本のJCMはパリ協定の下で活用できません。ルールがまだできていないのに、なぜ日本ははやばやとJCMにのりだしたのでしょうか。

 亀山副センター長は、「日本は2050年目標で温室効果ガス80%減を主張している。その際、産業界から『日本はすでに省エネ技術が世界最高レベル』『だから外国の排出量を日本の技術で減らすべきだ』との声があり、その声にこたえるためにJCMの仕組みが大切だ」と言います。

 まずは制度作りをし、ルールができればすばやく実行できるように備えている、といえるでしょう。

 「JCMのために多くの時間と資金をつぎこんでいるので、COP25でのルール作りの結果は日本にとって重要」と亀山副センター長。

昨年のCOP24の日本パビリオンの写真

昨年のCOP24における、当研究所とバングラデシュ環境省との合同展示ブース。衛星(GOSATシリーズ)による温室効果ガス観測について紹介した。

気候変動対策の検証が本格的にスタート

 気候変動対策の国際的な取組として京都議定書(第1約束期間:2008~12年/第2約束期間:13~20年)があります。先進国に対して温室効果ガスの排出削減目標を義務付け、各国がその目標実現を実行する仕組みです。

 一方で2020年からのパリ協定では、削減目標の義務付けはせず、加盟各国がそれぞれの事情に合わせた削減目標(Nationally Determined Contribution)を条約事務局に報告し、実行するという自己申告の仕組みをとっています。

 自己申告なので、各国の削減目標を合計しても、パリ協定の2℃ないし1.5℃目標を実現するために必要な削減量になるとは限りません。

 実際、これまでに提出された削減目標を合計しても、今世紀末の気温上昇は3℃になる見込みです。

 そのため、パリ協定では、各国の削減目標の引き上げを促す仕組みが作られており、来年の協定運用開始で、この引き上げの仕組みが動き出すことになります。

 この仕組みの鍵が、グローバル・ストックテイクと呼ばれています。

 グローバル・ストックテイクとは、パリ協定の長期目標と比べて、世界全体の気候変動対策はどの程度進んでいるかを5年おきに検証することを意味します。各国は、この検証の結果を見て、自国の次期目標を設定します。

 先に述べた通り、各国の削減目標を合計しても、パリ協定の2℃ないし1.5℃目標を実現するために必要な削減量とはかけ離れています。

 このため、各国が、「2℃ないし1.5℃目標達成のためには、世界全体の温暖化対策をもっと進めなければならないから、わが国の目標をもっと引き上げよう!」と思い、実際に行動に移すことが期待されています。

 つまり、5年ごとに削減目標を設定し直して引き上げを繰り返し、最終的に、2℃ないし1.5℃目標の達成を目指すのです。

 具体的には、2023年に第1回の検証をし、世界の気候変動対策がどれくらい進んでいるのかをチェックします。その検証結果を踏まえて、各国は2025年に2035年の削減目標を設定します。

 1回目の検証から5年後の2028年に再び検証があり、その結果を踏まえて2030年に2040年の削減目標を設定します。

グローバル・ストック・テイクのイラスト化

2030年までに、削減目標の設定し直し(引き上げ)が2回行われる。

 現在提出されている削減目標は、実は、国によって「目標年」が異なっています。

 例えば米国は「2025年に2005年比で26-28%減」で、ブラジルも2025年です。一方、日本は目標年が2030年で「2013年比26%減」です。中国、インドも2030年。

 そして、パリ協定は、2020年に各国が現在の削減目標の見直しをするよう求めていて、2025年目標の国は2030年を目標年にした削減目標を、日本などの2030年目標の国は引き上げしたものを、それぞれ提出する必要があります。

 また2020年中に2050年戦略(2050年までに、どれだけ排出量を削減するかの目標を含めた低排出長期戦略。原文は「mid-century, long-term low greenhouse gas emission development strategies」)の提出が呼びかけられています。

 日本も、2019年6月に「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」を公表しました。

 各国の長期戦略がどうなるかによって、全体を足し合わせた時に世界全体でどれくらい削減できそうかが見えてきます。この点においても、2020年は重要な一年になりそうです。

 パリ協定の運用開始の来年2020年は、各国の温室効果ガス削減を引き上げていくプロセスが本格化していきます。

 「削減目標の引き上げ作業そのものは来年からだが、パリ協定開始前年のCOP25では、引き上げの気運を盛り上げることが政治的モメンタム(はずみ、勢い)として重要になる」と亀山副センター長は見ています。

 今年9月のニューヨークでの気候行動サミットでは、スウェーデンの16歳の環境活動家グレタ・トゥンベリさんのスピーチが注目を集めました。

 国連のグテーレス事務総長も、「77ケ国から排出ゼロを目指すとの報告を受けた」と削減目標の充実をアピールしました。

 COP25でも、気候危機に対する行動を訴える強いメッセージが発信されそうです。(前編/終)

**記事の後編はこちら↓
「“負担”から“チャンス”/脱炭素社会に向けた競争の時代」


[掲載日:2019年11月29日]
取材協力:国立環境研究所 社会環境システム研究センター 亀山康子副センター長
写真協力:衛星観測センター Pang Shijuan
取材、構成、文:冨永伸夫(対話オフィス)、杦本友里(社会環境システム研究センター)

参考関連リンク

●COP25公式ホームページ(英文/外部リンク)
https://unfccc.int/cop25

●国立環境研究所「COP24(気候変動枠組条約第24回締約国会議)では何が決まった?」
http://www.nies.go.jp/social/topics_cop24.html

国立環境研究所の関連記事

●地球環境研究センター「ココが知りたいパリ協定」
http://www.cger.nies.go.jp/ja/cop21/

●国環研ニュース35巻「パリ協定と今後の温暖化対策」
https://www.nies.go.jp/kanko/news/35/35-3/35-3-04.html


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