1. ホーム>
  2. これまでの活動>
  3. 対話企画「みんなで話そう!生きものと自然の“不思議”」開催報告
  4.  

これまでの活動

対話企画「みんなで話そう!生きものと自然の“不思議”」を開催しました

はじめに


 当研究所では、毎年夏に一般の方に向けた大型イベント『夏の大公開』を開催しています。

 今年は7/22(土)に4年ぶりの対面開催となり、社会対話・協働推進オフィス(以下、対話オフィス)は、生物多様性をテーマにした対話イベント「みんなで話そう!生きものと自然の“不思議”」を実施しました。

 当日は、事前申込みいただいた小・中学生が集まり、各3-5名程度に分かれてグループワークを行いました。

 対話オフィスのコミュニケーターが進行役をつとめ、生物多様性領域の多田満シニア研究員による専門家の解説を交えながら、“対話”を通して一緒に学びを深めました。

 当日のワークの様子を紹介します。

当日の会場の様子

対話オフィスの渡邉が進行をつとめ(右)、研究者の多田さんが解説しました(左)。


「センス・オブ・ワンダー」を探ろう


 「生物多様性」という言葉、最近では耳にする機会も増えたと思います。今回、参加者のみなさんに事前に聞いたイメージでは、このような回答がありました。

・すべての生物が生きる大前提として、必要な環境
・知らず知らず生物同士が助けあい、地球環境を守っている
・外来種が増えると共存はむずかしい?
・虫の世界、突然変異、生態系
・生きものの個体数には自然の調整がある?

 では「生物多様性」とはなんのことで、私たちの暮らしとどう関わっているのでしょうか?それを紐解くヒントが1冊の書籍にありました。

 『沈黙の春』などで知られるアメリカの海洋生物学者、レイチェル・カーソンの著作『センス・オブ・ワンダー』に、以下のような一節があります。

もしもわたしが、すべての子どもの成長を見守る善良な妖精に話しかける力をもっているとしたら、世界中の子どもに、生涯消えることのない、「センス・オブ・ワンダー=神秘さや不思議さに目を見はる感性」を授けてほしい、とたのむでしょう。

引用:レイチェル・L. カーソン(著)、上遠恵子(訳)「センス・オブ・ワンダー」新潮社より

 「センス・オブ・ワンダー」とは、人が持つ五感(嗅覚・聴覚・視覚・触覚・味覚)から得る“感性”のことです。

 例えば、雨上がりの独特なにおい、夏の日暮れに響く虫の声、犬をなでたときに感じる温かい感触など、日々の暮らしのなかで、みなさんもとくに意識することなく感じているのではないでしょうか。

 レイチェル・カーソンは、そうした私たちの感覚、感性を人が生きる上で重要な能力ととらえ、すべての子どもが生まれながらに持っているこの「センス・オブ・ワンダー」をいつまでも失わないでほしいと語り、そしてそこから得た「自然についての発見の喜びや感動を、一緒に分かちあうことが大切」というメッセージを残しています。


GW①:生きものや自然にふれて楽しかったり驚いたりした思い出、体験は?


 そんな「センス・オブ・ワンダー」な感性を探るため、ここで1回目のグループワークを行いました。

 まずは、これまで生きものや自然にふれて楽しかったり驚いたりした体験について参加者のみなさんに思い出してもらい、それぞれフセンに書き出しました。

 次に、書いたフセンを「自然マップ」に貼りつけて内容を共有し、各自の思い出、体験についてグループのメンバー同士で話しながら聞き合いました。

マップにフセンを貼り付けた実際の写真

実際にフセンを「自然マップ」に貼りだした様子。

 参加者が書いた内容について、全体から一部を紹介します。

フセン内容をイラストで紹介

フセンは内容のみをピックアップ。原文ママ。

 生きものに関する話から、景観に関する話、または自然体験に関する話まで、多様な思い出、体験についての話が参加者からでました。


「生物多様性」とは?


 ではこの「センス・オブ・ワンダー」と「生物多様性」は、どうつながっているのでしょうか?

 地球上の生きものは40 億年という長い歴史のなかで、変化する地球環境に適応して進化してきました。それぞれの生物種には特徴があり、すべての生きものが直接的、間接的に関わり、支え合って生きています。私たち人も、そんな関わりのなかの一部です。

 国際条約のひとつ、『生物多様性条約』では、「生態系の多様性」「種の多様性」「遺伝子の多様性」といった3つのレベルがあるとし、生きものそれぞれの豊かな個性と、そのつながりのことを「生物多様性」といいます。

生物多様性のイメージ図

生物多様性のイメージ図(対話オフィス作)

・生態系の多様性・・・森林、里地里山、河川、湿原、干潟、サンゴ礁など、場所や景観に関する多様性
・種の多様性・・・動植物から微生物まで、様々な種の生き物がいることの多様性
・遺伝子の多様性・・・同じ種でも異なる遺伝子をもつことで、形や模様、生態などに多様な個性があるという多様性(例 アサリ、ナミテントウなど)

参考:環境省「生物多様性」


「生態系サービス」とは?


 それでは、なぜ「生物多様性」は大切で、大事なのでしょうか?

 私たちの暮らしは、食べ物や水の供給、気候の安定など、多様な生物や環境が関わり合う“生態系からの恵み”によって支えられており、これらの恵みは「生態系サービス」(自然からの恵み、恩恵)と呼ばれています。

 具体的にどのような恩恵があるのか、大きく4つの分類から紹介します。

①供給サービス
食べものや木材、医薬品の原料となる素材などのほか、生きものの遺伝的な情報、機能や形態など、生態系からヒントを得たものが暮らしに活用されるなど、さまざまな資源が供給されています。

②調整サービス
森林が適切に保全・管理されることで地すべりなどが防がれ、大気や気温の調整、水をきれいにするなど、自然や生きものによって暮らしやすい安全な環境に整えられています。

③生息・生育地サービス
すべての生きもの、生態系は相互作用や関係により成り立っており、支えられています。その作用を考慮し、守ることで生きものが暮らせる豊かな環境が保たれています。

④文化的サービス
キャンプやバードウォッチングなどのレクリエーションや、その土地の生態系により成り立っている環境を訪れることで得る安らぎなど、体や心の健康、幸せな気持ちを高めてくれます。

参考:環境省「自然の恵みの価値を計る」、環境省「生物多様性及び生態系サービスの総合評価 2021」

 このように、「生態系サービス」は食べ物や水といった資源を供給してくれるだけでなく、人や生きものが暮らしやすい環境を整えてくれたり、自然に触れることで得られる文化的な恵みを与えてくれるなど、地球で暮らす生きものにとってとても大きな役割を果たしています。

 そして、これら「生態系サービス」の基盤になっているのが、さまざまな生物が関わりあい、支え合いながら構成されている「生物多様性」なのです。


GW②:「センス・オブ・ワンダー」な体験を生態系サービスとつなげてみよう


 2回目のグループワークでは、1回目で発表した「センス・オブ・ワンダー」な思い出、体験が4つの「生態系サービス」のどれに当てはまるのかをグループで話し合いました。

 ①供給サービス、②調整サービス、③生息・生育地サービス、④文化的サービスのそれぞれに当てはまるものもあれば、①④、②③の複数だったり、①②③④すべてにあてはまるものもあり、私たちの暮らしがこうした恩恵によって支えられていることを改めて実感しました。

マップにフセンを貼り付けた実際の写真

生態系サービスについて、フセンを貼りだした様子。
図の参考:環境省「生物多様性広報パネル」

 1回目のグループワークで紹介した一部回答をもとに、2回目のワークの結果を紹介します。

フセン内容をイラストで紹介

フセンの内容は原文ママ。


おわりに


 ワークの最後に、レイチェル・カーソンのメッセージを伝えて、本イベントは終了しました。

地球の美しさと神秘を感じとれる人は、生きていることへの喜びを見いだすことができ、生き生きとした精神力を保ち続けることができるでしょう。

引用:レイチェル・L. カーソン(著)、上遠恵子(訳)「センス・オブ・ワンダー」新潮社より

 参加者からのアンケート回答では、「人は自然からのサービスなどに支えられて生きていた」「調整サービスとび生物は、密接に関わっていること」「生物多様性は、人にめぐみをもたらすものだと新しく分かった」「実際に皆の体験を4つに分類してみて、生息・生育地サービスが一番大きく占めることが分かった」など生物多様性や生態系サービスへの理解を深めたという感想のほか、「班の人の話も聞くことができ、視野が広がった」「様々な学年の子と話す機会があまりなかったのできん張もしたけれど、楽しかったし貴重な体験になった」「色々な意見を人につたえられて楽しかった」など、“対話”を通して学んだことへの感想もいただきました。

 各40分(2回開催)のコンパクトな時間での開催となりましたが、自分の考えを共有し、他の人の話を聞き合うなど、子どもたちにとって新たなアプローチで学びを深める機会にもなったようで、とてもうれしく思います。

 ご参加いただいたみなさま、ありがとうございました!(終)

参加者同士が話し合う様子の写真

グループでお互いの話を聞き合う様子。


実施用コンテンツ資料のダウンロード


 本イベントで使用したスライド(資料①)、貼り付け用のマップ2枚(資料③④)、そして進め方をまとめた実施ガイド(資料②)を公開しています。どなたでも自由にダウンロードしてご使用いただけますので、学校や市民に向けたワークショップなどにぜひご活用ください。

進行で使うスライドの表紙

①進行スライド

進め方をまとめた実施ガイド

②実施ガイド

グループワーク1用のマップ

③自然マップ_印刷用

グループワーク2用のマップ

④生態系サービス_印刷用


感想、アンケートへのご協力のお願い(任意)
実際にご使用になった感想や、アンケート結果などをお送りいただける場合には、下記のメールアドレスまでご連絡いただけますと幸いです。今後の参考にさせていただきます。
社会対話・協働推進オフィス taiwa-office★nies.go.jp(★→@)


[掲載日:2023年9月7日]
取材、構成、文・前田 和、渡邉 陽子(ともに対話オフィス)
写真・成田正司(企画部広報室)、渡邉 陽子(対話オフィス)


参考関連リンク

●環境省「生物多様性」(外部リンク)
https://www.biodic.go.jp/biodiversity/about/about.html

●環境省「自然の恵みの価値を計る」(外部リンク)
https://www.biodic.go.jp/biodiversity/activity/policy/valuation/service.html

●環境省「生物多様性及び生態系サービスの総合評価 2021」(外部リンク/PDF)
https://www.biodic.go.jp/biodiversity/activity/policy/jbo3/generaloutline/files/jbo3_report.pdf

関連記事・コンテンツ

●対話オフィス「気候と生態系の危機に関する所内公開意見交換会」開催報告
https://taiwa.nies.go.jp/activity/opinions01.html

●対話オフィス「五箇さんに聞く!「“外来種”は悪者?」-“外来種問題”から学ぶ、自然との向き合い方-」
https://taiwa.nies.go.jp/colum/gairaisyu.html

●国立環境研究所「【生物多様性×気候変動ウェビナー】-同時解決に向けた科学のいま(動画)
https://youtu.be/xur0fGm70-w?si=dEfB8As0J8N3V0Ab

●対話オフィス「【TVでおなじみ、ダニ博士が語る】新型コロナウイルス発生の裏にある“自然からの警告”」(動画)
https://youtu.be/1g3Y36z772Q?si=_6nbGS4rKdjKqh3C


ホーム > これまでの活動