千葉県匝瑳市のソーラーシェアリングを訪問、視察してきました
はじめに
みなさまはソーラーシェアリングをご存じですか。
近年、山間部における大規模な森林伐採等を伴うような、不適切な太陽光パネルの設置による自然破壊が問題になっていますが、その一方で農地に太陽光パネルを設置するソーラーシェアリングの取り組みが注目を集めています。
今回、『百聞は一見に如かず』ということで、国立環境研究所(以下、国環研)「気候危機対応研究イニシアティブ(※注1)」のメンバーは、2026年3月26日に千葉県匝瑳市の市民エネルギーちば株式会社/株式会社TERRAを訪れ、ソーラーシェアリングの現場を見学し、同社の宮下さんからお話を伺いました。
本稿では、“地域に受け入れられる”太陽光発電とはどのようなものかを紹介します。
千葉県匝瑳市の北部、飯塚・開畑地区は、開けた土地に畑地が広がり、鳥のさえずりが響くのどかな場所です。その中に、多数の太陽光パネルが整然と設置されています。
しかし、筆者の個人的な印象では、人工物が自然の景観を損ねている、という違和感はありませんでした。
それは事業を行っている市民エネルギーちばが、これまで積み上げてきたソーラーシェアリングのやり方に工夫があるから、と考えました。
※注1 気候危機対応研究イニシアティブ
国環研内で、大気の観測・現象解明の研究プログラム、緩和や社会の研究プログラム、気候変動適応の研究プログラム、地域脱炭素を初め地域協働についての研究プログラムが連携して、月に一度、気候変動の問題を横断的に議論する場として設置したもの。さらに、生物多様性や資源循環との関わりについても検討を進めてきた。
ソーラーシェアリングとは、千葉県匝瑳市の例
ソーラーシェアリング(営農型太陽光発電)とは、農林水産省のガイドブック(農水省, 2025)(※注2)では「一時転用許可を受け、農地に簡易な構造でかつ容易に撤去できる支柱を立てて、上部空間に太陽光を電気に変換する設備を設置し、営農を継続しながら発電を行う事業です。作物の販売収入に加え、発電電力の自家利用等による農業経営の更なる改善が期待できます。」と書かれています。
重要な点は、農業の継続が前提条件であり、その上で脱炭素な電気をつくる、ということです。
作物の販売収入に加え、固定価格買取制度(FIT制度)(※注3)等を活用した売電によって、農業経営の改善が期待されます。
千葉県匝瑳市飯塚・開畑地区は、40年以上前に、国の政策によって周辺の山を削り、谷を埋め立てて造成された80haほどの場所です。しかし、粘土質で水はけが悪く痩せているため、大豆や麦など限られた作物しか育たず、耕作放棄地もあったそう。
こうした状況の中で、市民エネルギーちばの東代表らが中心となって農地の再生に取り組み、2017年には1MW級の第一発電所がつくられました。その後、設備は段階的に拡張されて、2024年には27基が稼働し、総容量は6MWに達したとのことです。
※注2 農林水産省 営農型太陽光発電取組支援ガイドブック(2025年度版)は、こちら(外部リンク)
※注3 FIT制度については、こちら(外部リンク)
千葉県匝瑳市にあるソーラーシェアリングの様子。多数の太陽光パネルの下で農作物を育てている。
右側前方は、景観になじみやすいように架台を黒くしたタイプ。
ソーラーシェアリングの技術的ポイント ―長島式の“1:2”に倣う―
本農場では、麦類や大豆の栽培を主として行っておられます。
農作物の上に太陽光パネルを設置することで、日光が遮られ収量が減っては本末転倒。そこで、2004年に特許技術として確立された長島式を採用されています。
東西方向に長く、南北方向に細いパネルを用いて、パネル幅とパネル間隔を1:2で配置し、遮光率1/3とすれば収量は下がらないとのことです。
パネルの下の農業:環境配慮型農業の実施 ―有機農業と不耕起栽培―
こちらの営農型ソーラーシェアリングの更なる特徴として、環境配慮型農業を取り入れていることが挙げられます。
全ての圃場23haで有機JAS認証(※注4)を取得して、無農薬、無化学肥料施肥で作物を栽培しておられ、そのうち3.6haでは土を耕さない栽培方法-すなわち不耕起栽培-を実践していらっしゃいます。
通常の農地管理では土を耕すことが普通ですが、実は土を耕すと通気性が良くなり好気性微生物の活動が活発化して、土壌の有機物の分解によるCO2排出が促進されてしまう、という負の側面があります。他方、耕起をしないことによってそれを防ぎ、作物の根から出される炭素を効率的に土に留めることができます。
また、耕さないことでミミズを初めとする土壌生物の多様性が高まり、結果として団粒構造が発達し、水もちがよく、かつ、水はけもよくなるといった土の機能が向上し、質の良い農作物の収穫につながると言われています。
これらの取り組みを通じ、環境再生型農業の実践に取り組んでおられます。
当日参加した国環研の生物多様性の研究者から、ヒバリの鳴き声が複数聞こえることの指摘がありました。これも宮下さんがおっしゃるには、農薬の不使用により虫が死ななくなった結果、小鳥が増えたのだろうとのこと。
一方で、このような農地管理は雑草にとっても生育しやすい環境であるので、草刈りの手間が課題となります。これに対して宮下さんは「折り合いをつける」という考えをされ、主品目の邪魔をしなければ雑草が生えていても問題ないと話されました。
細長い太陽光パネルの下で農業を行う。撮影した日は曇天であったが、パネルの下に暗さは感じない。大麦が育っている。
※注4 有機食品の検査認証制度は、こちら(外部リンク)
ソーラーシェアリングによる地域共創
いかに先進的なソーラーシェアリングを進めても、農業の担い手がいなければ持続は難しくなります。
見学サイトでは農業法人が主体となって農業を行う形態を取っており、多様な人が関われる仕組みづくりを模索し、農業活動の継続のハードルを下げることも考慮されたようです。宮下さんは「後継者不足が深刻化する中、サラリーマン社員に加え、若い方やシルバーも、人を集めて時間給で働いてもらうのも良し、手間暇はかけない、ITは積極利用。そうすることで、なんだか面白い農業を実現したい」とおっしゃっていました。
また、宮下さんは「農業をどんどん応援しないと、地域のコミュニティが壊れてしまう」と話します。取り組みが比較的円滑に進んだ理由の一つとして、地元の農家との信頼関係があったから、と強調されました。特に、市民エネルギーちば株式会社の創業メンバーの一人でもある、地元兼業農家である椿氏の存在が大きかったとおっしゃります。顔なじみの関係性の中で、「使われていない畑が草ぼうぼうだから、こういうことをやりたい。貸してほしい」という会話が成立し、農家との賃貸契約や農地所有適格法人の認定がスムーズに進んだとのことです。
続けて、宮下さんは「最初のビジョンが発電業者目線ではダメだと思う。最初は地域のビジョンを作る。こういう地域にしたい、だからソーラーシェアリングを選ぶ。その方が地域の方の反対は起こりにくいと思う。」ともおっしゃります。
東代表は、「これまでは“農産物製造業”を農業と言った。これからは地域、農村を経営する“農村経営業”と定義を変えたらどうか」と考えるそうです。
国環研でも地域との協働や共創をテーマとした研究プログラムがあり、脱炭素の議論のために地域に訪れると、脱炭素よりも高齢化や人口減少といった切迫した課題を前に、「脱炭素どころではない」と言われることも少なくありません。そこで、地域の抱える様々な課題と脱炭素を同時解決する道を、対話を通じて共に考える研究が行われています。この匝瑳市のソーラーシェアリングはまさにそうした考えを体現する事例であり、脱炭素先行地域(※注5)にも選定されています。他の地域でもこのような好事例が広がり、「脱炭素ドミノ」が起こることを筆者は期待します。
※注5 脱炭素先行地域は、こちら(外部リンク)
オフサイトPPAで再生可能エネルギー利用の拡大
屋外での見学中に、「この発電所は東京都内のヘアサロンが入るビル向けの電力を供給している」と説明を受けました。もちろん、発電所からビルまで物理的に送電線を直接繋いでいるわけではありません。
この仕組みはオフサイトPPA(Power Purchase Agreement)(※注6)と呼ばれるもので、環境省によると「再エネ電源の所有者である発電事業者 (ディベロッパー、投資家等含む) と電力の購入者(需要家等) が、事前に合意した価格及び期間における再エネ電力の売買契約を締結し、需要地ではないオフサイトに導入された再エネ電源で発電された再エネ電力を、一般の電力系統を介して当該電力の購入者へ供給する契約方式」と定義されています。多少コストが高くても脱炭素の電気がほしい、と言われるケースは増えており、東京都内を中心に学校、図書館、店舗などからの引き合いがあるとのこと。
さらに、ソーラーシェアリングの農地で有機農法によって生産された大豆を使った味噌やコーヒー、大麦を使ったビールなどの加工品も製造されている。これらはパタゴニア・インターナショナル・インク日本支社とのコラボレーションによるものであり、再生可能エネルギーと持続可能な農業の付加価値を付けて高い価格設定で販売されています。消費者に伝える取り組みとして注目されます。
※注6 環境省 オフサイトコーポレートPPAは、こちら(外部リンク)
最新技術としてのペロブスカイト太陽電池
2024年より、TERRA株式会社と積水化学工業株式会社による、ペロブスカイト太陽電池の共同実験が開始されたとのこと。
ペロブスカイトは日本発の次世代技術であり、従来のシリコン型太陽電池と比べて、薄く、軽く、柔軟である点が特徴です。このため、これまで太陽光パネルの設置が困難であった場所への導入が期待されます。筆者も実物を触ってみたところ、その印象は「ペラペラのマウスパッド」であり驚きました。
宮下さんによると、ソーラーシェアリングにペロブスカイト太陽電池を導入すれば、架台をより高く、より柱と柱の間隔を広げることが可能になり、その結果、より大型のトラクターなどの農機具が使いやすくなり、より大規模な農場でのソーラーシェアリングの展開に繋がる可能性がある、と展開を語られました。
おわりに
2050年のカーボンニュートラルの実現には、太陽光発電が重要な鍵となります。
また、ソーラーシェアリングは、パネルが影をつくることで、夏の酷暑から農作物とその下で作業をする人を守る適応の効果も期待できます。
今回見学した匝瑳市のソーラーシェアリングは、緩和(地球温暖化の原因となる温室効果ガスの排出量を削減すること)と適応(すでに起こっている、あるいは将来予測される気候変動影響に対応すること)の両面に役立つことに加えて、エネルギー、農業、生物多様性、地域づくりといった多様な要素を統合的に捉え、実際の地域で実装している点で、国環研気候危機対応研究イニシアティブと共通しており、非常に示唆に富む事例でありました。意見交換、対話を通じて、双方の知見の深化が図られる有意義な機会となりました。
最後に、本訪問を快く受け入れてくださった市民エネルギーちば株式会社/株式会社TERRAに謝意を表し、本稿の結びといたします。
駐車場の上に設置されていたソーラーパネル。パネルの下でキウイフルーツを育てておられ、昨年は300個穫れたそう。車も涼しい。
(市民エネルギーちば株式会社ご提供、2026年5月ご撮影)
[掲載日:2026年6月8日]
構成、文、写真:
初塚 真己(国立環境研究所 企画部広報対話室 / 対話オフィス 高度技能専門員)
仁科 一哉(国立環境研究所 地球システム領域 エミッション統合評価推進室 主任研究員)
訪問先:
市民エネルギーちば株式会社 / 株式会社TERRA
ご説明、ご対応:
市民エネルギーちば株式会社 専務取締役 宮下 朝光 様
参考関連リンク
●2022年秋 MIN-ENE 会社案内(外部リンク)
https://www.energy-chiba.com/app/download/11805596691/MIN-ENE_2022aw_01-64_0915.pdf?t=1666153811
●大学等コアリション地域ゼロカーボンワーキンググループ インタビュー
https://uccn2050.jp/cms/wp-content/uploads/2025/01/FY2024_匝瑳市脱炭素先行地域事業インタビュー(匝瑳市役所・市民エネルギーちば-・福島大学_clear_v8.0a.pdf



