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この夏の熱中症は?-暑さ新時代にどう向き合うか

はじめに

 昨年に続いて暑かった今年の夏、どう乗り切りましたか。

 今年も暑さに悩まれた方は多かったのではないでしょうか。9月に入り、ひと段落したところで、今年の暑さと熱中症の傾向をまとめました。

 熱中症によって救急車で運ばれた人(以下、熱中症患者)の数は、昨年の7割程度にとどまりそうです。昨年よりはかなり減りはするものの、一昨年までの最多記録をすでに上回っており、高止まり傾向です。

 「暑さ新時代」に入ったのでしょうか。昨夏に引き続き、熱中症研究に長年取り組んできた小野雅司・客員研究員(環境リスク・健康研究センター)に話を聞きました。

緑のカーテンと風鈴の写真

熱中症、昨年の約7割か

 今年5月から9月15日までに、熱中症で救急搬送された人の数は68,455人。昨年と同じ期間(94,170人)の72.7%でした。

 これは、今年は7月中旬に天候不順が続き、気温が上がらなかったことが主な要因です。下の、気温と熱中症患者の関係図を見てください。

気温と熱中症患者の関係を表したグラフ

気温と熱中症患者数の関係を表した図

 折れ線グラフが東京の日最高気温(左目盛り)、縦棒が全国の患者の数(右目盛り)で、いずれも青線が2018年、赤線が2019年です。

 昨年(青線)は、暑さのピーク時期(猛暑日=最高気温が35度以上=の前後)は3回ありました。7月10日ごろからの約2週間、8月初旬、そして8月下旬です。

 特に7月23日には39度を記録。東京以外では埼玉・熊谷で、日本歴代最高の41.1度となりました。

 一方、今年の暑さのピークは、これまでのところ7月末からの2週間と8月17~18日、そして9月9~10日の3回。東京以外では、お盆の時期に40度越えを記録しました(8月14日に新潟・高田40.3度、15日は新潟・寺泊40.6度、山形・鼠ケ関40.4度)。

 40度越えの厳しさはあったものの、昨年の7月中下旬のピークがなく、その分、患者数が減っています。

最初の気温ピークが危険

 気温と患者数との関係で、昨年と今年では共通点がありました。

 患者数が多いのは、1回目の暑さピークです。

2018年の患者数と気温をランキングにした表
2019年の患者数と気温をランキングにした表

2018年(上)と2019年(下)の患者数と気温のランキング

 2018年で患者数が最も多かった(3,809人)のは、7月18日で気温は35.3度。これは、気温ランキングでは10番目でした。

 一方、5日後の7月23日には最高気温39度を記録しましたが、この日の患者数は3,603人で患者数ランキングの3番目でした。また、8月に入ってからの35度越えの日の患者数は、ランキング10位に入っていません。

 2019年も同じ傾向で、患者数最多3,318人は8月2日で、気温35.1度は気温ランキングでは10番目。

 一方、台風15号が関東地方に上陸した9月9日に36.2度になりましたが、患者数は836人でした。また、8月9日以降の35度越え日の患者数はランキング10位に入っていません。

 わかりやすく言うと、夏全体で見ると、気温のピーク1回目に比べて、2回目、3回目になるほど、患者数は減っています。猛暑日を何回か経験すると、気温が高くても、搬送者数の伸びは衰えました。

 早い時期の猛暑日ほど、身体への負担はより大きくなるといえそうです。

 ただ、9月9日から15日の1週間の患者数(全国)4,243人のうち、千葉県が498人と突出、全国47都道府県の中で最多です(千葉に次いで愛知342人、大阪319人、東京273人)。これは台風15号に伴う停電など、暑さ対策がとれなかったことと関係している可能性があります。

「暑さ新時代」に突入

 ひと夏の熱中症患者数は、2007年以降の統計があります。

2017年以降の熱中症患者数のグラフ

ひと夏の熱中症患者数(2007年~)

 昨年は95,137人で、一昨年(52,984人)の2倍近くになり、過去最高を記録しました。この夏の総数はどのくらいになるでしょうか。

 9月15日までの患者数は68,455人です。これは一昨年までの最高数58,729人(2013年)をすでに上回っており、熱中症患者数は高止まりしています。

厳しい暑さへの心構えは?

 暑さ新時代への対策について、この夏からはどのような教訓をくみ取れるでしょうか。

 「熱中症環境保健マニュアル2018」(※注1)などを参考に、暑さへの備えについて小野さんに聞きました。

※注1 環境省による「熱中症環境保健マニュアル2018」はこちら(外部リンク)

今年の暑さや熱中症患者の数について、気づいた点は何ですか?

 7月中旬が天候不順で気温が上がらず、その後に、35度越えの猛暑日が到来した点が今年の特徴です。

 熱中症の患者数は、1回目の猛暑日の前後に目立ちました。最初の暑さの衝撃が、身体にはこたえるようです。

何を心がければいいでしょう?

 気温が上がりだし、35度を超える猛暑日が来そうになる時期に神経を使いましょう。

 本格的な暑さが始まる前に、軽度の運動などで身体を暑さに馴れさせること(暑熱馴化)が暑熱対策に効果的です。若い人は数日間、高齢者は2週間程度が目安です。

 今年、猛暑日を何回も経験したとはいえ、その慣れが続くわけではありません。「35度以上は何回も経験したので大丈夫」という過信は禁物で、しばらくすると身体は元に戻り、暑さへの耐性も低下すると考えた方がいいでしょう。

具体的には?

 まずは、天気予報や暑さ指数の予報に気を配りましょう。

 そして、猛暑対策グッズの活用があげられます。この夏は、男性用日傘がずいぶんと普及しました。

 また、スマートフォンほどの大きさの携帯型扇風機を持ち歩く人も目立ちました。猛暑対策のグッズをもっと活用しましょう。

 凍らせた保冷剤は、いざというときには役立ちます。体表近くに太い静脈がある場所を冷やすのが最も効果的です。具体的には首(前頸部)の両脇、ワキの下、足の付け根前面(鼠径部)などです。

 保冷剤や、または氷枕、自販機で買った冷えたペットボトル、かち割り氷をタオルでくるんであてましょう。

来年の夏には、オリンピックとパラリンピックが開催されます。屋外での観戦など心配です。

 暑い環境下での観戦に当たっては、熱中症対策は不可欠です。

 観戦中の対策だけではなく、入場までの待ち時間や、駅などターミナルから会場までの移動時間など、日差しにさらされたり、人込みにもまれたりするなど、熱中症をわずらう条件はさまざまあります。

 給水所がなかったり自動販売機で飲み物が品切れだったり、水分補給に問題があるかもしれません。

 どのような点に注意すべきかについて、「夏のイベントにおける熱中症対策ガイドライン2019」(※注2)を作成しました。イベント主催者向けのガイドラインですが、観戦する際にも役に立ちますので、ご覧下さい。(終)

※注2 環境省による「夏のイベントにおける熱中症対策ガイドライン2019」はこちら(外部リンク)

太陽が眩しい青空の写真

[掲載日:2019年9月19日]
取材協力:国立環境研究所 環境リスク・健康研究センター 小野雅司 客員研究員
取材、構成、文:冨永伸夫(対話オフィス)

参考関連リンク

●環境省「熱中症環境保健マニュアル2018」(外部リンク)
http://www.wbgt.env.go.jp/heatillness_manual.php

●環境省「夏のイベントにおける熱中症対策ガイドライン2019」(外部リンク)
http://www.wbgt.env.go.jp/heatillness_gline.php

●環境省「熱中症予防情報サイト」(外部リンク)
http://www.wbgt.env.go.jp/doc_prevention.php

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