「ヒアリの次は何が来ますか?」
保全生態学者 五箇公一さんインタビュー[後編]
はじめに
インタビューの後編(※注1)では、ヒアリの次にどのような種が侵入するのかをたずねました。
ヒアリを予言していた五箇さんの回答は意外な展開に。また、黒のファッションの裏話にも注目です。
※注1 インタビュー前編はこちら

これまで五箇さんが描いた絵の作品と一緒に。会議室に飾られている。
警告しているのは感染症
外来種はヒトとモノ、経済の流れに伴って動きます。ヒアリはもともと南米から北米に移って、久しかった。
しかし、2000年代に入って、ニュージーランド、オーストラリア、東南アジア、中国と05年までのわずか5年間でアジア・太平洋諸国に広がった。
ブラジルなど南米の新興国が農産物を大量に生産・輸出するようになり、経済発展が著しい中国、アジア諸国でそれらの農産物を吸い寄せるという近年の国際的な経済流動がヒアリの急速な分布拡大を招いたと考えられる。
だから、ヒアリが日本に来るのは時間の問題だった。
そう考えると、予測できるのは今後経済発展の予想されるところからの外来種の侵入増加で、次の時代には経済発展がめざましいインド、そしてアフリカから危険な種がやってくる可能性が高いということになります。
個人的にはいま、ヒアリと同じくらい、熱心に警告しているのは、感染症です。
はい。心配なのは2つあって、まず狂犬病。
日本では1950年に狂犬病予防法ができて、57年に最後の患者がでてからは発症者ゼロを維持しており、狂犬病の清浄国になった。
しかし、アジアで清浄国は日本だけで、中国、インドなどでは発症が続き死者も出続けています。台湾も清浄国でしたが2013年に感染した動物が見つかって大騒ぎになった。治療法がなく、発症したらほぼ死に至る怖い病気です。
狂犬病のウィルスは、ネズミなど媒介する動物が多いので、感染した動物がアジアのどこかから入ってきてもおかしくない。
一方で、日本側にはウィルスを広げる不安な要素があります。街中でも目立つようになったアライグマです。
アライグマは狂犬病のウィルスに感染しても発症するまでの潜伏期間が半年から1年ある。
いまのところ狂犬病に感染したアライグマは見つかっていません。ただ、ウィルスが入ってきてアライグマに感染したら、潜伏期間中に、感染が広がり、食い止めるのは簡単ではなくなるでしょう。
原産地の北米ではアライグマは危険だから近づかないように子ども教えているほどです。
予防法として飼い犬には狂犬病のワクチン接種を義務付けていますが、アライグマは野放しです。
メディアとの共同調査は成功しましたか?
マダニからうつる病気です。重症熱性血小板症候群(SFTS)(※注2)といいます。
日本では2013年に初めて患者が報告されました。これまでに約300人の患者がみつかり、死亡率は20%とされています。
こちらもアライグマが関係しています。和歌山県である獣医師さんが、捕獲したアライグマの血液を保管していて、2006年ごろからSFTS感染例が急上昇していることが血液の検査からわかっている。
アライグマに寄生して、SFTSをもつマダニが急速に広がっている、と考えられるわけです。
※注2 重症熱性血小板症候群(SFTS)についてはこちら(外部リンク)。
そうです。7月に、視聴者からの情報をもとに作成する「みんなでつくる危険生物マップ」(※注3)という企画が始まりました。
私はマダニがどのような動物に寄生しているかを調査してほしいと依頼したのです。
※注3 番組のサイトはこちら(外部リンク)。
いや、もっと新しい宿主としてわかったのはネコでした。各地の獣医さんや飼い主のみなさんから情報を1ケ月がかりで集めた結果、マダニのついたネコが全国的に増えているという報告が目立っていました。
番組を準備していたら、7月24日に厚生労働省が「野良ネコにかまれた女性がSFTSで死亡」という発表をして、「ネコが危ない」と大騒ぎになりました。
それで8月30日に「クローズアップ現代+/命を奪うマダニ感染症。ペットも野生動物も危険!?」(※注4)を放送して、マダニの感染症の危険をよびかけました。
※注4 番組の詳細はこちら(外部リンク)。
まだ正確にはよくわかりません。
ただ、我々の仮説は、もともと山の中にしかいないマダニがシカやイノシシ、クマなどの野生動物とともに人間の生活圏に侵入してきて、さらに住宅地や都心部までアライグマ、ネコなどの動物を介して広がる。
野生動物が、これまでよりもずっと人々の暮らしの現場に近づいているということが問題ではないかと考えています。
最近では、10月10日に飼い犬からSFTSが飼い主に感染した例も厚生労働省から発表され、リスクの高まりが示唆されています。
外来種のアライグマが街中で増加して、農作物が荒らされるなどの被害のほか、私たちの暮らしにも影響を及ぼし始めています。
外来種の問題が感染症問題につながってきていると思います。ペットなど動物の危機管理が今まで以上に重要だと伝えたいと思っています。
今回の方法は市民参加型とは思っていません。獣医という専門家と全国ネットワークを作ったということです。
ヒアリの場合だと、港湾管理の担当の方とか、その分野での専門知識や経験をもっている人たちなど、関係者間のチャンネルを通して情報を精査していく仕組みが大事だと思います。

どうして黒のファッションなんですか?
売り込みはしませんよ。7年ほど前にTBSの教育系バラエティー番組「教科書にのせたい!」に出たのが本格的なバラエティー進出(!?)でした。
当時TBSで動物の解説をされていた千石正一先生に懇意にしていただいていて、バトンタッチという形でお引き受けしました。その後、様々な局の番組に出演する機会をいただきました。
3年ほど前には、NHK「クローズアップ現代」のアライグマ特集番組で解説者として出演しました。
その時、いまと同じ様に黒いサングラスに黒い革ジャンパーで出たところ、解説の内容より、服装が話題になって、「ファッションがすごすぎて、話が頭に入らない」とネットで騒ぎになった。
それを見ていた、フジテレビのプロデューサーからオファーを受けて、「全力!脱力タイムズ」に出始めました。2015年のことでした。
ふだんもこの格好です。
黒の服はね、2000年ごろかな。出張先でブティックに入って黒を着てみたら、自分でもすごく似合った気がして、はまっちゃったんですね。
海外の学会でもこの黒ファッションですよ。この方が目立つ。日本人はこれくらいしないと印象に残らない。
私は、海外の学会ではブラック・ガイって呼ばれている。「あのブラック・ガイはきょうはどうしてる」なんて他の日本人が聞かれたりしてね。
これは高校生から。山岳部にはいっていたので登山に愛用して大学時代では山だけでなくバイクに乗ってる時も愛用していた。
そのうち顔の一部になった気がする・・・。いまは10本ほどもっています。
7月にNHKの討論番組に出演した際に、朝の番組には似つかわしくないスタイルの人物が出ているとの意見もありましたが、そこそこいいこと言ってるんだから、ふさわしい格好をしたほうがいい、という意見が届いた時には、こちらが伝えたいことは(むしろこのスタイルによって)届けることができた!と手ごたえを感じました。
これからも誠意ある情報発信に努めていきたいと思います。(後編/終)

[掲載日:2017年10月25日]
取材協力:国立環境研究所 生物・生態系環境研究センター 生態リスク評価・対策研究室 五箇公一室長
取材、構成、文:冨永伸夫(対話オフィス)
**インタビュー前編はこちら↓
「ヒアリはいま、どうなっていますか?」保全生態学者 五箇公一さんインタビュー[後編]
参考関連リンク
●厚生労働省「重症熱性血小板症候群(SFTS)について」(外部リンク)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000169522.html
●NHK「みんなで作る危険生物マップ マダニ編」(外部リンク)
https://www3.nhk.or.jp/news/special/kikenseibutsu/
●NHKクローズアップ現代+「命を奪うマダニ感染症。ペットも野生動物も危険!?」(外部リンク)
https://www.nhk.or.jp/gendai/articles/4024/
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