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地球温暖化の影響の連鎖がひと目でわかる!
全体像を可視化した「ネットワーク図」と「フローチャート」

はじめに


 地球温暖化は、自然環境や人間社会に様々な影響をもたらします。また、ある影響が他の影響を引き起こす“負の連鎖”も懸念されています。

 しかし、複雑に絡み合うこれらの影響がそれぞれどのように関係するのか、全体像を把握するのはなかなか大変です。

 当研究所の横畠徳太主幹研究員らのグループは、温暖化によって何が起こり得るか、影響の連鎖がひと目でわかるように可視化する研究を行いました。

 食料、生態系、健康など、温暖化の影響が及ぶ様々な分野について、それぞれの専門家が幅広く文献を調査して洗い出し、デザインの専門家が図で表現しました。

食料の分野におけるネットワーク図。それぞれの影響がどう作用するか矢印で繋げながら表している。

「食料」分野の影響をあらわしたネットワーク図

 完成した図は、地球温暖化の影響の全体像を理解したり、対策を考える際に役立ててもらえるよう、どなたでも自由にお使いただける資料として公開しています。

※注 ダウンロードこちら(記事内のダウンロード項目に飛びます)

※注 この研究に関する論文は、こちら↓(外部リンク)
「地球温暖化による影響連鎖の全体像の可視化と市民対話」環境科学会誌34 (5), 214-230, 2021年

※注 この研究に関する報道発表は、こちら↓(英語論文へのリンクあり)
「気候変動による影響の連鎖の可視化に成功ー地球温暖化問題の全体像を人々が理解することに貢献ー」


温暖化は人間社会にも影響


 連鎖する影響として、一例を挙げてみましょう。

 「地球温暖化で、紛争が激化する!?」

 一見すると関係がなさそうですが、地球温暖化の影響をたどっていきます。

「作物生産量の減少」に関わるつながりを解説にそって赤字で説明した図

 図の中央に「作物生産量の減少」とあります。そこから左斜め下に伸びた矢印の先に「食料価格の上昇」があり、その先に「食料安全保障の悪化」、さらに右に進むと「紛争の激化」とあります。

 温暖化が進むと、猛暑日が増えたり、水資源が減ることで、作物生産量が減少します。食料価格は上昇し、生活に必要な食料を入手しづらくなる「食料安全保障の悪化」が起こります。

 最終的に、食料を巡る争いを火種に紛争の激化を招く可能性があることも報告されています。

 この図をたどることで、一見するとつながりがなさそうな、温暖化と紛争に因果関係がある可能性があることを視覚的に把握することができました。


ネットワーク図とフローチャート


 上で紹介した図は「食料」に関する因果関係だけを抜き出したものですが、ネットワーク図はこのほかに、「水資源」「エネルギー」「産業とインフラ」「自然生態系」「災害と安全保障」「健康」の全7分野で影響を洗い出しており、それぞれの図に分かれています。

 図は、「エネルギー」と「産業とインフラ」をひとつにまとめ、「自然生態系」は「生態系生産量」「生物多様性」「海洋」の3つに分けています。

 これらの図では、温暖化によるマイナスの影響だけでなくプラスの影響も取り上げています。また、すでに起こっている事象のほか、対策を取らなかった場合に将来(今世紀中)に起こり得る影響も含んでいます。

 因果関係の全体像を表したネットワーク図のほか、左から右に向かって影響の連鎖を表した「フローチャート」もあります。

 【気候】【自然環境】【社会経済】【人間生活】と分けて配置され、それぞれの影響がどの領域に関わるか、より分かりやすくなっています。

食料の分野におけるフローチャート。気候、自然環境、社会経済、人間生活の領域にわけて整理している

「食料」分野の影響を領域ごとに示したフローチャート


ネットワーク図の見方


 図には様々な形や色のアイコンがあり、影響の連鎖をひと目で捉えやすく示しています。

 「エネルギー、産業、インフラ」の図を例に、見方を説明します。

気候、水資源、食料など8つの分野別アイコンを表示した図

 ネットワーク図では右下にあるように、分野ごとにアイコンの色と形が分かれています。

 たとえば「エネルギー」に関わるものは黄の台形、「食料」に関わるものは黄緑の丸で描かれています。

 各アイコンの中には、「増加」を表すものには上向きの矢印、「悪化や低下、減少」を表すものには下向きの矢印が入っています。

 アイコンの大きさは、この研究で特定した因果関係の数に応じています。数が多いほど、アイコンが大きく表示されています。

 具体的なつながりを見てみましょう。

「インフラ被害の増加」に関わるつながりを解説にそって赤字で説明した図

 温暖化によって、右端の「洪水の増加」が起こると、その左の「インフラ被害の増加」を招きます。

 「インフラ被害」はこのほか、下にある「土砂災害の増加」「凍土の融解」「高潮の強化」「豪雨の増加」や、右上の「森林火災の増加」、上の「強風の激化」からも影響を受けています。

 インフラ被害が増加すると、その左上の「水の安全保障の悪化」や、左の「エネルギー安全保障の悪化」につながり、さらに左下の「熱中症や熱関連死亡の増加」という、人間の健康に悪影響が及ぶことが分かります。

 例えば、ニューヨークでの停電により、エアコン設備の不足や歩行者の増加などで熱にさらされる機会が増え、熱関連死亡率が増加した、などの報告例があります。

 一方で、図左下の「気温の上昇」が、その右の「暖房需要の減少」につながるという、よい影響をもたらす場合もあります。

 ただし、アイコンの大きさから、全体としてはマイナスの因果関係の多さに比べて、プラスの方は多くないことも見てとれます。


フローチャートの見方


 続いて、「水資源」を例にフローチャートを見てみましょう。

 こちらのアイコンは、形はすべて同じです。ネットワーク図と同様に、文献で指摘されている数に応じて大きさは変わっています。

気候、水資源、食料など8つの分野別アイコンを表示した図

 左から右へと見ていきます。

 左の【気候】領域に「降水量の減少」「気温の上昇」があります。これらが右の【自然環境】の「河川流量の減少」につながり、さらに「生物多様性の低下」「水資源の減少」に至ります。

 それが【社会経済】の「水価格の上昇」を招いたり、【人間生活】の「水安全保障の悪化」を引き起こしています。

 左から右へとたどっていくことで、気候の変動が自然環境の変化を招き、最終的には人間社会にマイナスの影響も及ぼすというつながりが、この図からよくわかります。

 逆の視点ではどうでしょう。

「エネルギー需要の増加」に関わるつながりを解説にそって赤字で説明した図

 たとえば【社会経済】領域にある「エネルギー需要の増加」に対応しようとするならば、これを引き起こす「河川水質の悪化」(水質をよくするためにエネルギーが必要になる)や、これに影響を与える「洪水の増加」、さらにその前の「豪雨の増加」(洪水や豪雨の増加によって河川水質が悪化する)にも注目することが必要だと、矢印を逆にたどっていくことで見えてきます。

 ある影響の因果を追跡することによって、地球温暖化への対策を、複合的な視点から検討することができるようになります。


図を活用して具体的な影響の把握へ


 これらの図は地球温暖化による影響の全体像を明らかにしていますが、網羅的に示していることで、個々の項目の抽象度が高くなっている側面もあります。

 「作物生産量の減少」や「インフラ被害」といっても、どの種類の作物なのか、インフラへの被害とは具体的に何かなどは、個々の状況に応じて変わってきます。

 そのため、より具体的に温暖化の影響をイメージしてもらうには、この図をベースにしながら、ある特定の地域や生活環境ではどうかをみんなで考えたり、話し合ったりしていただくことを、おすすめします。

 一例として、対話オフィスは「温暖化が進むと何が困るかみんなで考える会」と題した対話イベント(※注1)で、この図を活用したディスカッションを行いました。

 参加者からは、「室内外の気温差が大きいと園児を散歩に連れていくことができない」など具体的な懸念の声や、「家畜の出すメタンが温室効果を生んでいる」など図には含まれていない視点を聞くことができ、温暖化のリスクや影響をより身近に、具体的に考えることにつながりました。

 温暖化対策としては、すでに起こっている影響に対する“適応”の重要性も指摘され、各自治体も適応戦略の策定に取り組んでいます。

 地域ごとに固有のリスクを把握し、どんな対策をとるべきかを検討する際にも、この図が役立つと期待しています。

※注1 イベントの報告記事は、こちら


おわりに


 地球温暖化を止め、脱炭素社会の実現を目指すうえで、科学の知見に耳を傾けることの重要性も指摘されています。

 でも、科学が示す複雑な事象をきちんと理解するのは難しいことでもあります。

 そこで、見た目に分かりやすい図があれば、理解の大きな助けになるのではないでしょうか。

横畠主幹研究員のコメント:

 地球温暖化でどのような問題がおこるのか、その全体像を明らかにしたいと思い、この研究を始めました。

 ここで紹介したネットワーク図に加えて、地球温暖化で起こる問題のリスト(※注2)を眺めることでも、全体像がつかめるのではないかと思います。

 全体像を知ることをきっかけにして、より具体的な影響について想像し、自分に関係のありそうな問題、自分が対応策に関わることができるかもしれない問題について考えることができるかもしれません。

 この研究はIPCC第5次評価報告書を利用して分析を行なっています。新しい情報を利用するなど、さらに研究を発展させ、地球温暖化の影響をより理解しやすくすることに、貢献したいと思っています。(終)

※注2 リストの詳細は、こちら(プレスリリース中の表1)


図のダウンロード


 すべてのネットワーク図とフローチャートは、こちらからPDFファイルをダウンロードできます。

 ぜひご活用ください。

ネットワーク図のダウンロード用ボタン

ネットワーク図

フローチャートのダウンロード用ボタン

フローチャート


[掲載日:2021年10月4日]
取材、構成、文:岩崎 茜(対話オフィス)

参考関連リンク

●J-STAGE「「地球温暖化による影響連鎖の全体像の可視化と市民対話」環境科学会誌34 (5), 214-230, 2021年」(外部リンク)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/sesj/34/5/34_340501/_article/-char/ja

●国立環境研究所「気候変動による影響の連鎖の可視化に成功ー地球温暖化問題の全体像を人々が理解することに貢献ー」
https://www.nies.go.jp/whatsnew/20190228/20190228.html

●国立環境研究所「「温暖化が進むと何が困るかみんなで考える会」開催報告」
https://cger.nies.go.jp/cgernews/201911/347005.html


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