国環研内部向けイベント・ランチセミナー実施報告 「対話とグラレコの極意」
はじめに
国立環境研究所では、「あの人と手ぶらでゆるく話す会」と題して、研究所に勤務するさまざまな職員の話を聞くランチセミナーを、月に一回程度開催しています。内部向けのイベントではありますが、今回は特別に、2026年5月に開催されたセミナーの内容をご紹介したいと思います!
登壇者は、福島地域協働研究拠点に所属する有廣悠乃さん。福島県浜通りエリアに位置する大熊町や、猪苗代湖周辺において、対話と協働に関する研究をされています。住民参加のまちづくりを、対話を通じて進めているとのこと。今回は、対話の手法の一つである「グラフィックレコーディング」についてお話いただき、研究者を含む約50名の職員が参加しました。
まずは参加者に「今日の話に期待すること」を尋ねた有廣さん。次の回答・質問事項が出てきて、有廣さんはそれを一つ一つ書き記していきます。
○グラフィックレコーディングがどのようなものか知りたい
○参加する満足感が得られるワークショップの作り方の極意は?
○グラフィックレコーディングの実演を見られるのが楽しみ!
○どうしたらグラフィックを使ったファシリテーターになれるのか? etc.
「今日の話に期待すること」に対する参加者の発言を、次々書いていく有廣さん
この先は、出てきた質問に対して有廣さんが回答する形で、お話いただいた内容を紹介していきます!
グラフィックレコーディング(グラレコ)について
参加者が話している内容を可視化していく技術のことを“グラフィックレコーディング”と呼びます。リアルタイムで書いていくことが特徴で、その場で書いたものが創発につながりやすくなるので、その狙いで話し合いに使用されることが多いです。
また、“グラフィックレコーディング”には似たような言葉がありまして、少しずつ使われ方が異なります。先ほどみなさんに質問して答えてもらったり、話を振ったりしたみたいに、ファシリテーションしながらその内容を書いていく形を“グラフィックファシリテーション”と言います。一方で、場に介入せずにずっと傍聴しながら書いていく形が“グラフィックレコーディング”です。他にも、場の熱量やエネルギー、雰囲気を書いていく手法があり、“スクライビング”と呼ばれています。どのように熱量やエネルギーを表すかというと、色を使います。例えば、熱量がある場合や明るい雰囲気であれば、オレンジなどの暖色系の色を使い、ハートフルな場だなと感じたらピンク色とか。また、海外であればハートを描いたり、“知恵”を表すためにリンゴを描いたりして、図形で表したりもします。
ちなみに、今使っているこのペンは、ドイツ製なんです!
さらに、“ハーベスティング”という言葉もあります。英語で刈り取る、収穫するという意味ですが、その場の目的やゴールを意識し、残していきたい言葉を絵を使って抽出していく方法を指します。
スクライビングの例。ハートフルな場の様子を表してくれました
有廣さんがグラレコで使用しているペン。なんとドイツ製!!
(以下、総称する場合は「グラレコ」と表記)
グラレコを用いる(絵を描く)効果として、パッと見てみんながわかりやすい点が、まずは挙げられるかと思います。また、絵を見ることで新しいアイディアの創発につながることもあります。他にも、議事録の代わりに使用したり、行政の方はグラレコを使って報告をまとめたりして、成果物として利用されることがあります。
ただやはり、グラレコも万能ではなく、苦手という方も多くいらっしゃいます。縦書きの方が読みやすいという方もいれば、絵や色が苦手な方もいて、話し合いでのノイズになってしまう場合があります。そのため、グラレコをする上でもどのような方がその場に参加されているか、注意する必要があります。また、小学校のフィールドワークにおいてグラレコをすることがあるのですが、発達障害の特性がある児童にとってグラレコはかなり辛いようです。その場合は、絵は極力控えて、具体的な写真を見せたり、アイコンを使う形に変えたりしています。
実は、日本語と英語でだいぶ違いがあります。日本語の場合、漢字を用いてそれぞれの言葉を短く表すことができますが、英語は文言が長くなってしまいます。そのため、リンゴで“知恵”を表すように、概念を絵で表すことが多いです。一方で日本語でも、感情を表す言葉は乏しいので、その点ではアイコンを使ったりします。
また、顔の表現についても、文化による違いがあります。日本語圏では顔を描いたときに一緒に表情も描きますが、英語圏の場合は顔の輪郭だけで表情を描かず、体を描いて感情を表現しています。どの言語主体でグラレコをするかによって、注意が必要です。
グラレコを実施するには
まず、絵を描くこと自体は意外と簡単です。特に私の場合は〇と△と□で構成されているので、それが描ける方はみなさんグラレコができます!(笑)
あとは、いかに話のポイントを抽出していき、その上でファシリテーションしていくことになります。私の経験則になりますが、どうやったら良い話し合いの場を作れるか、という根本的な考えを持った上で、その場をファシリテーションしながらどのように絵を活用していくか。その認識が重要かと思います。
グラレコをする人は最近増えていて、絵さえ描ければいいんじゃないかという方も結構いらっしゃいます。登壇者や参加者の話を、絵を描きながらまとめていく形です。そうではなくファシリテーションの文脈で使用する場合は、話し合いの目的やゴール、その先にどうやってアクションにつなげていきたいかを意識した上で、場の設計やワークショップのデザインをしていく必要があります。その中でグラフィック(絵)をどう活用するかを考えることが、グラフィックを使ったファシリテーターになることにつながると思います。
とにかくまちづくりのワークショップや教育現場のワークショップなどに、グラレコをさせてください、ファシリテーションさせてくださいとお願いして回りました。初めのうちはうまく描けなかったのですが、そうやってひたすら描いていると次第に話の構造がつかめるようになり、理解が深まるとともに、どう描いたら話の内容が伝わりやすくなるかを考えられるようになりました。
さらに私の場合は大学院に進んだため、論文を読む際に絵を描いてまとめるようにして、内容の理解を深めるとともに相手に伝えることを意識して描く経験を重ねました。
有廣さんが話している様子
ファシリテーターとして意識していること
参加者から発言してもらいやすくなるように、雰囲気を作ることを意識しています。そのために、私からボケたことを言ったりして、「話してもいいんだな」と感じてもらえるようにしています。決して、普段からボケ倒しているわけではありません(笑)
そのようにして、私からの言葉かけや振る舞いを工夫することで、まずは参加者が何を話したいと思っているか、考えていることや抱いている違和感を出してもらえるように、意識しています。そこから「こう思っているのだけど、どう思いますか?」といった形で、次第に参加者の中で話がつながっていくようになります。
また、参加者の中には、参加すること自体に葛藤があったり、悲しい思いを抱えて参加されている場合があります。そのような方がいらっしゃる場合、絵はかなり効果的に働きます。それぞれの方の感情を絵や色で表すことで、「共感してもらえた」と受け取ってもらえて、そこからご自身のことをどんどん話し始めるようになってくれます。その方の場に対する主体性が上がってくるため、話が深まっていき、満足度にもつながっていきます。
意識しているのは、“問い”を基に、今何の話をしているのかを考えることです。例えば、「この議題をどうしたら面白くできるか」といった問いがあったとすると、参加者が「面白い」と思っているアイディアが、抽出していくべき部分かと思います。そのような形で、どのような問いが設定されていて、その問いを基に何を抽出するか(ハーベストするか)を意識しています。
一方で会議などのように、議題や論点はあるものの、“問い”という形では設定されていない場合は、グラレコ初心者の方には、まずは全部描くよう伝えています。すべて描いていく中で、自分で論点がわかったり、この部分が論点であると参加者に教えてもらったりして、その部分に色を使うなどして強調することで、少しずつ論点をつかめるようになってくるかと思います。そのため、まずは全部描いていくところから始まるかと思います。
これまでの話とも少し重複しますが、ワークショップなどのファシリテーションの時には、参加者が話しやすい雰囲気を作ることを意識しています。また、対話において相手と自分とで意見が異なる場合には、まずは自分の意見を一旦保留して、相手の意見を受け止めるように意識しています。考えが異なる人を排除するのではなく、その人と意見が違うことをまずは認めた上で、保留することです。そのあたりが対話の極意というか、ポイントになるかと思います。
その上でファシリテーターとしては、各参加者とどのように関わるかを考えることも重要です。対話には責任が伴うとよく言われますが、ファシリテーターとしてはその責任を意識した上で参加者の話の内容を十分に受け止め、全体の場をどのように展開していくかを考える必要があります。その際に、“場をホールドする”ということがあります。ホールドとはつかむ、保持するといった意味ですが、決して場をコントロールするという意味ではなく、参加者の言っていることをうまく捉える、といったニュアンスで使用します。特にグラレコの場合に注意が必要ですが、描いた絵が発言者の意図とずれていた場合、発言者の意識自体が絵に引っ張られてしまい、元の意図からずれてしまう可能性があります。そのため、常に「今おっしゃったことはこういうことでしたか?」「違ったら指摘してくださいね」と十分に確認しながら、グラレコをするようにしています。これは絵を用いないファシリテーションの場合も同様かと思いますが、場をコントロールするのではなく、参加者がそれぞれご自身の考えの中にいられるような状態に“ホールド”することを大事にしています。
有廣さんが話している様子
今回グラレコしていただいた内容
【イベントを終えて】
グラレコ自体は私もこれまでに見たことがあったものの、それを実施している方に焦点を当ててお話を聞く機会は初めてでした。ファシリテーションにおける極意や重視するポイントはもちろんのこと、「グラレコは万能ではない」という点で参加者に合わせた対応を取られていることも、対話をする上で通ずる大切な視点であると感じます。
有廣さん、ありがとうございました!
このランチセミナーは内部向けのイベントではありますが、今回は外部に展開可能な内容であったことから、コラムとして掲載いたしました。今後も国環研の内部での活動について、可能な範囲で掲載していければと思います!
[掲載日:2026年7月8日]
構成、文:清水 裕士(対話オフィス)
写真:有廣 悠乃(福島地域協働研究拠点 地域環境創生研究室)、志賀 薫(企画部広報対話室)
参考関連リンク
●FRECC+「地域の力を可視化する『大熊リーフレット』発刊[大熊リーフレットお披露目会開催レポート]」
https://www.nies.go.jp/fukushima/magazine/event/20250821.html
●国立環境研究所 福島地域協働研究拠点
https://www.nies.go.jp/fukushima/index.html



