微生物の世界がすごい!
NIESコレクション&ツイッターをご紹介します
はじめに
微生物のなかで、水中に広く棲み私たちの暮らしにも深い関係のある藻類。
その藻類を収集・保存している当研究所の微生物系統保存施設(NIESコレクション)がツイッター(※注1)での情報発信を開始しました。
保存株の多さから、世界有数の規模のコレクション。そのすごさを、ネットでの情報を通して紹介しています。
SNSを始めた理由、そして藻類の魅力とは?生物・生態系環境研究センターの河地正伸室長、山口晴代研究員に話をきき、対話オフィスがまとめました。
※注1 微生物系統保存施設のツイッターはこちら(外部リンク)
微生物専門のSNS、始めました
NIESコレクションがどのように利用されているのかや、NIESコレクションの活動内容をリアルタイムで紹介することです。
NIESコレクションには、約570属、1,200種、3,900株の藻類や原生動物が保存されています。
保存株のうち、細胞を凍らせても復活ができるものについては、液体窒素の中で凍結保存を行っています。凍結保存ができないものについては、継代培養と言って、細胞の一部を新しい培養液に入れて、増殖させていく作業を手作業で行っています。
保存株は、研究機関や教育機関の求めに応じて分譲(提供)していますが、分譲は年間約1,000株にのぼります。1週間平均にすると約20株。
これだけの頻度で利用されていると、培養株がどのような研究実績をあげているのかなど、なかなかわかりません。
分譲先(提供先)のみなさんには、研究論文が発表されたら、NIESコレクションに報告していただくことをお願いしていますが、リアルタイムでの報告はとても難しいのが現状です。
そこで、検索エンジンGoogle ScholarでNIESコレクションが利用された研究論文を見つけて、ツイッターで紹介したりしています。
現在はツイッターのみの運用ですが、今後は他のSNSの運用も開始していきたいと考えています(※注2)。
※注2 2018年11月より、インスタグラムをスタート。アカウントはこちら(外部リンク)
例えば、9月3日のツイート(外部リンク)を見てください。
このツイートは、中国上海市西方にある湖・太湖に発生したミクロキスティス(水質汚染で問題になるアオコの原因になる藻類)の研究で、NIESコレクションの株が活用されたことを説明しています。
NIES-843が私たちのコレクション固有の記号で、私たちのコレクションのミクロキスティスの株を意味します。
コレクションの株にはすべて、あたまに「NIES-」からはじまる記号をつけているので、この記号があれば、どの株なのかを特定できるのです。
例えば、フランスのパスツール研究所にもコレクションがありますが、そこの株はPCCから始まる記号で表されるため、例え同じ種の藻類を使っていたとしても両者は区別可能です。
ほかのツイートでも、「NIESー」という記号があれば、NIESコレクションの株が利用された研究論文を紹介していることになります。
藻類は水の中に棲む光合成をおこなう生物群です。
藻類のなかには、ミクロキスティスのようにアオコを形成したり、毒素を出したりするものがいて世界各地で環境問題の原因なっていますが、一方で、産業利用される有用な藻類も多くいます。
オイル、バイオエタノール、家畜の飼料のほか、食料や医薬品の研究などにも使われており、NIESコレクションの藻類株は、世界中でさまざまな目的で利用されています。
コレクションの人気株TOP5
1位:ヘマトコッカス[NIES-144]
アスタキサンチン(※注3)という有用物質(写真の赤い部分)を産生。抗酸化作用が期待され、近年、健康サプリメントとして注目されています。
※注3 魚のサケの身を赤くしている色素。
2位:アルスロスピラ(またはスピルリナ)[NIES-39]
食品着色料や健康食品の材料として活用されています。
スピルリナの色素は「スピルリナ青」と呼ばれ、さわやかな色合いです。人気アイスキャンディー「ガリガリ君」の青や、この夏話題になった青いドレッシングに活用されています。
また、スピルリナから作った栄養食品「タベルモ」もあります。
3位:プロクロロコッカス[NIES-2087]
海洋の重要な一次生産者(※注4)として研究の対象になっています。
※注4 一次生産者とは?
光合成で有機物を合成する生物で、より大きな生物のえさになる。食物連鎖の基礎となり、海洋生態系を研究するうえで重要。
同率4位:ムレミカヅキモ[NIES-35]
生態毒性試験の試験藻類として広く利用されています。
同率4位:ミクロキスティス[NIES-843]
アオコの原因になる藻類として盛んに研究されています。
アイコンゆるキャラ「あおこちゃん」
「あおこちゃん」のあおこは、まさに湖や池において夏に大量発生する「アオコ」のことです。
NIESコレクションは1983年にスタートしましたが、当時はアオコや赤潮などを作るような環境問題の原因となる藻類株を中心に収集・保存が行われました。
現在は、それ以外の藻類株の割合も増えていますが、依然としてアオコや赤潮を作る藻類が保存株の多くを占めています。
実は、藻類は身近な存在でありながら、日常生活ではあまり気にかけて生活することもないかも知れません。それに顕微鏡を使わないと見えないことから、とっつきづらいという面もあるでしょう。
そこで、藻類を身近に感じてもらうひとつの手段として、「あおこちゃん」というキャラクターの作成に至ったのです。「あおこちゃん」が、藻類を身近に感じてもらえるきっかけになればうれしく思います。
分譲株数は最近は年間1000株程度で2017年実績で1,355株です。
利用目的は基礎研究分野(分類学、生理学、ゲノム科学等)47%、応用研究分野(バイオ燃料等)24%、環境研究分野(水質評価等)7%でした。
研究以外では、高校や大学などの授業で利用されたのが、全体の19%を占めました。
各藻類株は、試験管の中で細胞分裂によって増殖します。
例えば、NIES-1だとすると、NIES-1という試験管を少なくとも3本維持しています。各試験管の中の細胞は分裂しますので、分裂したら、その分を提供することができます。
私たちの仕事は藻類の細胞を増やして、増えた細胞を提供すると捉えて頂いた方がいいかも知れません。
こんな楽しみ方も、おもしろ株あれこれ
ボトリオコッカス[NIES-836]
石油系オイルを作る藻類。
近年では、このオイルが皮膚保湿性をもつことからハンドクリームなどの化粧品に利用されています。
ミカヅキモ[NIES-55]
藻類としては細胞サイズがとても大きく、教科書でよく紹介される藻類です。
ミカヅキモの属名はClosteriumですが、これは紡錘というギリシャ語に由来しており、中には三日月型ではない紡錘形のミカヅキモもいます。
ボルボックス[NIES-541]
ミカヅキモと同様に、教科書でよく紹介される藻類です。池や田んぼなどで見られます。
いくつもの細胞が集まって、群体を形成します。体細胞と生殖細胞に分化していることから、多細胞生物の進化の研究に用いられています。
ユーグレナ[NIES-541]
ミドリムシの名前でもおなじみの藻類です。栄養サプリメントや飼料のほか、バイオ燃料などへの応用が研究されています。
これまで紹介してきた緑色藻類と同じように、緑色の葉緑体を持っていますが、系統的には異なるグループです。
ミドリムシは、もともと葉緑体を持っていなかったのですが、緑色藻類を食べて、その藻類を消化させずに保持することで新たに葉緑体を獲得したと考えられています。
ご挨拶&「あおこちゃん」書下ろしイラスト!
2018年8月1日に、NIESコレクションではツイッターを始めました。
あおこちゃんから発せられるツイートを通して、私たちの施設をよく知っていただくと同時に、フォロワーのみなさまと藻類のおもしろさ、多様性、重要性などを語り合う場としていきたいと思います。
キャラクターの「あおこちゃん」の秘密はまだまだあります。
「あおこちゃん」の正体や秘密については、追々ツイッターで紹介していきますね。楽しみにしていてください!
[掲載日:2018年10月4日]
取材協力:生物・生態系環境研究センター 河地正伸室長、山口晴代研究員
取材、構成、文:冨永伸夫(対話オフィス)
書籍のお知らせ
今回お話しを聞いた山口研究員が、微生物の図鑑「プランクトンハンドブック 淡水編」(外部リンク)を共著で出版します(10/9発売)
微生物系統保存施設(NIESコレクション)のSNS
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