1. ホーム>
  2. これまでの活動>
  3. 夏の大公開サイエンスカフェ(生物多様性編)開催報告
  4.  

これまでの活動

2017年度夏の大公開①
サイエンスカフェ「環境問題解決に向けて私たちにできることは?ー生物多様性編」開催報告

はじめに

 社会対話・協働推進オフィス(以下、対話オフィス)が昨年度から始めている環境サイエンスカフェ。今年の夏の大公開(7/22)では、「環境サイエンスカフェ-環境問題の解決に向けて私たちは何をしたらいいの?」と題して、1日に2回開催しました。

 テーマはそれぞれ「生物多様性」「資源・廃棄物」です。

 今回のサイエンスカフェカフェは、テーマを専門とする研究者がまず発表をして、それに対して、別の専門分野の研究者が自らの研究経験を生かした問いかけをするという仕組みで行いました。

 問いかけをするのがいわば“つっこみ役”です。そうすることで、一つの課題を色々な角度から考えるきっかけができれば、と考えました。

 1回目の「生物多様性」では、日本最大の淡水魚であるイトウを研究する福島路生・主任研究員(生物・生態系環境研究センター)が、北海道での調査結果をもとに発表しました。“つっこみ役”は、林岳彦・主任研究員(環境リスク・健康研究センター)です。

 2回目の「資源・廃棄物」で取り上げた話題は、小型家電です。寺園淳・副センター長(資源循環・廃棄物研究センター)が「あなたの家の小型家電をさがそう」とのタイトルで発表し、それに対して藤井実・室長(社会環境システム研究センター)が“つっこみ役”をつとめました。

 まずは、「生物多様性」の回をご紹介します。

当日の会場の写真

各回とも約30人の方が参加。親子連れも多く、小学生からも率直な声を聞くことができました。

絶滅危惧種イトウが物語る「森と川と海のつながり」

なぜイトウを護らなければならないの?

 この回では、『日本最大の淡水魚イトウからみた森里川海のつながり』と題して、福島さんが発表しました。

 会場にはこの日、福島さんが、冷凍した本物のイトウ(体長1メートルほど)を北海道から持ってきて展示しました。来場者の子どもたちが集まってきて、「うわ、すごい」と驚く姿が見られました。

 ロシアのサハリン、沿海州、日本では北海道など寒冷地で多く見られたイトウですが、現在は数が減り絶滅危惧種に指定されています。

 北海道の河川のイトウを追跡・研究している福島さんは、イトウの数が減った背景として、農地開発のために河川にダムや堰(せき)を作った結果、水流がせき止められる場所が増えたことを指摘。

 「イトウは自分の生まれた場所に帰ってきて産卵する本能(母川回帰性)があるが、水流がせき止められたことで戻れなくなっている」と説明しました。

 イトウの生態を調べることで、森と川と海のつながりが失われていることがわかります。

展示されたイトウの写真

日本最大の淡水魚イトウ。全長が約2メートルもの超大型もいたとの記録もある(写真提供:福島さん)。

 発表のなかで、頭に大きなけがをしたイトウの写真が映し出され、参加者に対してけがの原因について質問をしたところ、小学生の一人が「人のつくったものにぶつかった」と回答。

 すると、福島さんは「そうです!人がつくったもの、カルバートと呼ばれるものです」と答えました。

 カルバートというのは、日本語では暗渠(あんきょ)と訳されていますが、土に埋め込んだ筒(直径1.5メートルほど)のことです。金属製のもの、コンクリート製のものがあります。

 川に橋をかけると経費がかさむので、川をまずは土砂でせき止めて、土砂の底に水路(水の流れ)を保つためにカルバートを埋め込むのです。

 橋がかかっていれば、川の流れはもとのままですが、カルバートが埋め込まれると流れは狭くなります。しかし、イトウにとってカルバートは川の流れと同じです。

 なので、産卵で上流のふるさとに戻るために流れをさかのぼろうとカルバートに飛び込むと、ときにはカルバートの端っこにぶつかり、頭にけがをします。

 写真に映っていたのは、カルバートでけがをしたイトウでした。

解説する福島さんの写真

イトウを取り巻く状況をきっかけに、環境保全に視点を広げた福島さん。

 福島さんの発表に対して、“つっこみ”役の林岳彦・主任研究員(環境リスク・健康研究センター)は、「そもそもイトウを護らなければいけないのか?」と問題提起。

 「ダムや農地は役に立つけれど、イトウは役に立つの?」と会場に問いかけ、意見を求めました。

 福島さんは「いま人の役に立つというだけで判断をしてはいけないのではないか。イトウは将来、役に立つ可能性を秘めているかもしれない」と言い、さらに、「そもそも、治水や農地の管理か生き物の保護かと天秤にかけるのではなく、両立を模索する発想が必要だ」と話しました。

 このほか、会場からは、「子供と釣りをしていて、ブルーギルなど外来種の魚を釣れたとき、子供の目の前で殺すべきなのか、逃がすべきなのか、どうすればいいのか悩む。何ができるのだろうか」との声があがりました。

 福島さんは、自身も同じジレンマを持っているとしたうえで、「まずは外来種の問題があることを話し合うところから、始めてほしい」と答えていました。

ドローンがとらえたイトウの映像

 当日会場でも上映された、北海道の上空からドローンで撮影したイトウの映像(国立環境研究所制作)を紹介します。

 雄大な景色と共に、川を遡上する2匹のイトウが確認できます。


参加者の意見は?

 各回とも実施後にアンケートを実施し、テーマについて各回では聞き切れなかった参加者の意見や考えを集めました。そのうちのいくつかを紹介します。

サイエンスカフェ後の感想

 市民の率直な意見が、環境問題に取り組む研究に示唆をもたらすことは多くあります。

 これからも引き続き、環境研究についてざっくばらんに意見交換できる場を設けていきたいです。(終)


[掲載日:2017年7月22日]
取材、構成、文・岩崎 茜(対話オフィス)

**サイエンスカフェの2回目「資源・廃棄物編」はこちら↓
「環境問題解決に向けて私たちにできることは?ー資源・廃棄物編」


ホーム > これまでの活動