「みんなで話そう、地球温暖化のほんとうのこと」
研究者による、小学校低学年向け特別授業を公開!(寄稿:横畠徳太主幹研究員)
はじめに
いまの小学生は、いろいろな環境問題が起こっていることを知っていて、小学校では「エコ活動」が全国的に行われているそうです。
その一方で、特に低学年のお子さんにとっては、エコ活動がどのように環境問題につながるのかについて、理解することがむずかしいことが想像されます。
このような背景のもと、つくば市立松代小学校から「身の回りの環境問題とエコ活動の意味についての理解を深めるための授業」の依頼を受け、2021年11月5日、小学校2年生を対象とした地球温暖化の授業を行いました。
小学生2年生の2クラスで、地球温暖化についてお話ししました。
地球温暖化の何を子どもたちに伝えるか、さまざまな伝え方があると思います。そこで、私たちが小学生に伝えたかったことを、授業スライドを使ってここに再現しました。
地球温暖化のことを子どもたちに伝えたいと思っている方々に、内容を参考にしていただくとともに、この問題について考えるための材料としていただければと思います。
ここからは、実際に授業で話した内容の詳細を紹介します。
「どう思う?何ができる?みんなで話そう、地球温暖化のほんとうのこと」
みなさんはエコ活動について学び、エコ活動をしていると思います。
今日は、なぜ、エコ活動をする必要があるのか、地球で、いま、何が起こっているのかについて、お話ししたいと思います。
ぼくは、国立環境研究所という研究所で働いています。つくばには研究所がたくさんあって、たくさんの人たちが、いろいろな研究をしています。
ちなみに「研究」というのは、これまでに誰も調べてこなかったことを、自分たちで調べることです。国立環境研究所では、環境の研究をしています。
毎年夏には、研究内容に触れたり、体験したりと、だれでも参加できる一般公開のイベントを研究所で開催しているのですが、子どもから大人までたくさんの人が遊びにきます。
僕の研究は、コンピュータで地球温暖化について調べることです。この写真のように、これまでに誰も調べてこなかったことについて、外に出て調べることもあります。
地球温暖化ってなに?
まずは、「地球温暖化って何?」ということについて、お話ししたいと思います。
地球温暖化というのは、いろいろなところで、気温が上がっている、ということです。
この図は、つくばで測った気温を図にしたもので、1年間、朝から夜まで気温を測り、その真ん中あたりを年ごとに表しています。
この図から、100年前には今より3℃くらい低かった、ということがわかります。今は、昔よりちょっとだけ暖かくなっているということです。
同じように、地球全体で気温を測った結果が、この図になります。
地球全体では、100年で1℃くらい、気温が上がっています。つくばでは、100年で3℃くらいだったので、地球全体で見た方が、上がり方が小さいです。
これは、地球には陸と海があって、海の上では気温が上がりにくいためです。なので、地面の上の温度に比べて、海の水の温度は、一年を通してあまり変わりません。
このため、100年の間をみても、陸に比べると、気温がすこし上がりにくくなっています。
なぜ気温が上がっているの?
では、「なぜ気温が上がっているのか」について説明します。
気温のしくみについて考えてみると、「二酸化炭素」という物質が、大切な役割を果たします。
まず、地球は、太陽の熱によって温められます。地球に入ってきた熱は、宇宙に逃げていきますが、その時に、空気の中にある二酸化炭素が、地球から逃げる熱を閉じ込めることになります。
二酸化炭素は目に見えませんが、空気の中にあります。目に見えないのに、空気の中にある、というのは不思議ですね。
二酸化炭素が、地球から逃げる熱を閉じ込めることにより、地球が温まることになります。このように、空気中にある見えないものが、地球を温める役割を、「温室効果」と呼びます。
目に見えない二酸化炭素ですが、なぜ、空気の中にあるのでしょうか。
二酸化炭素は、もう授業で習ったかもしれませんが、簡単に言うと、「ものを燃やす」ときに出てくるものです。
皆さんの暮らしの中では、どんなときに、ものを燃やしていると思いますか?これはとても大事なことなので、すこし、考えてみてください。何か思いついたら、発表してみてください。
一番身近なこととして、料理をしたり、お風呂を沸かしたりするために、ものを燃やしています。「ガス」とよばれていますね。ガス会社が、よく燃える空気をつくって、皆さんのおうちに届けています。
車を走らせる時も、車の中の「エンジン」というところで、ガソリンを燃やしています。ガソリンが燃えて、その時の熱を使って、車を走らせています。
ゴミも、クリーンセンターに運ばれた後、そこで燃やされて、別の場所にうめられています。ゴミを燃やす時に、二酸化炭素が出ます。
最後に、実は、電気を作る時にも、ものを燃やしています。「石油」と呼ばれる、とてもよく燃える油や、「石炭」というとてもよく燃える石を燃やして、電気を作っています。
このように、人間はたくさんものを燃やしているから、便利な生活をすることができるのですね。だいたい200年くらい前から、たくさんものを燃やすようになって、便利な生活をするようになりました。
たくさんものを燃やすようになったので、空気の中の、二酸化炭素が増えました。
10000年くらい前から、いままでの二酸化炭素の量を調べて図にしてみると、グラフのような感じになります。「今」のところで、急に増えているのがわかりますね。
今は2021年ですが、最近200年くらいを拡大すると、左上の図のようになります。200年くらい前から、二酸化炭素の量が増えており、二酸化炭素の量が増えたので、気温が上がり始めたのです。
ちなみに、ノーベル賞、という賞があって、とても役に立つ研究をした人が、賞をもらいます。いろいろな研究の科目で、世界で一番役に立つ研究をした人が、毎年、この賞をもらっています。
2021年のノーベル賞では、日本人の「真鍋さん」が賞をもらいました。真鍋さんは、二酸化炭素が増えれば、気温が上がる、ということを、とても昔に予想したのですね。
真鍋さんが最初に予想をしたのが、1967年、いまから45年くらい前でした。
そのときは、二酸化炭素が増えた時に、気温がどうなるか、わかっていなかったのですが、真鍋さんがはじめてきちんとした予想をして、その後、本当に気温が上がりました。
そして、気温が上がったことで、たくさん、困ることが、出てきました。そのように大事な問題について、とても昔にきちんとした予想をしていた、ということで、真鍋さんがノーベル賞をもらったのです。
気温が上がるとなにが困るか?
では、「気温が上がると、何が困るか」ということについて、説明したいと思います。
まず、気温が上がるので、とても暑い日が増える、ということがあります。
最新の予想では、あと3℃気温が上がると、猛暑日、1日の最高気温が35℃を超える日が、1年で、30日増える、暑い夜、クーラをつけないと寝られない夜が、1年で、40日増える、と予想されています。家の外でも中でも、長い時間、暑いところにいると、とても危険です。
また、大雨や洪水が増えると予想されています。気温が上がると、海から水がたくさん蒸発して、一度にたくさんの雨が降るためです。
たくさんの雨が降り、洪水がおこると、山が崩れてしまったりします。それが「がけくずれ」ですが、たくさんの土や泥が家に流れてきて、家が壊れてしまったりします。
また、暑すぎると、お米や野菜など、田んぼや畑で育てている食べ物が、ちゃんと育たなくなってしまいます。
これは暑すぎるために、割れてしまったトマト、赤くならなかったトマト、病気になってしまったいちご、ぶどう、りんご、もも、などです。食べられないものや、食べてもおいしくないものが、増えてしまうそうです。
暖かい海には、「珊瑚礁」という、魚が暮らす場所があって、とてもきれいなのですが、この「サンゴ」というのは生き物で、温度がかわると弱って、死んでしまいます。
また、私たちが食べている「さんま」や「いか」などは、遠くから泳いできたものを、日本の近くで捕まえているのですが、海の温度が上がると、日本の近くにこなくなるそうです。そうすると、このような魚を、捕まえることができなくなってしまいます。
また、うみの水が温まると、氷が解けやすくなります。
地球の一番寒いところ、南極は、太陽の光が当たらないため、とても寒いです。そこには、昔からたくさん雪が降って、降った雪が解けずに残っています。
ずっと雪が溶けないために、とてもとても大きな、氷の塊があります。海の水が温まると、この大きな氷の塊が解けるようになります。
南極にある氷の塊は、とてもとても大きいので、それが解けると、海の水の量がふえることになります。
海の水が増えると、いま陸になっているところが、海に沈んでしまうことになります。小さい島などは、島全体が、海の下に沈んでしまうところもあるかもしれません。
日本も、じつは大きな島で、つくばはその島の中にあります。
海の水が増えると、砂浜がうみに沈んでしまうことになります。気温が3℃上がると、日本の砂浜がほとんど(80%)なくなってしまう、と予想されています。
気温を上げないため、どうしたらいいか?
このように、気温が上がってしまうと、困ることがたくさんでてきます。
そのため、これから気温を上げないように、なんとかしなければいけない、地球温暖化を止めなければいけないと、考える人がたくさんいます。
では、「気温を上げないために、どうしたらいい」でしょうか。気温を上げないようにすること、地球温暖化を止めること、それも、エコ活動の目標ですよね。
これまでに説明したように、私たちの便利な生活のために、ものを燃やすことで、二酸化炭素がでます。二酸化炭素が増えることで、気温が上がることになります。
そのため、気温を上げないためには、二酸化炭素を出さない、ゼロにする必要があります。二酸化炭素を減らすだけではなく、「出さない」ことが必要です。
つまり、二酸化炭素を出すと、空気中の二酸化炭素が増えて、気温が上がってしまいます。これは、とても大事なことなので、覚えておいてください。
二酸化炭素を出さないということは、ものを燃やさない、ということになります。
気温を上げないためには、二酸化炭素を出さない、ということが大切です。
二酸化炭素を出さないようにするため、どんなことをしたらいいと思いますか?さきほど、どんなときに二酸化炭素が出るか、説明しましたね。
それを思い出しながら、考えていただければと思います。
電気を作る時に、石油を燃やしていました。料理をしたり、お湯を沸かすために、ガスを燃やしていました。なので、電気やガスを、大切に使うことは重要です。
車を動かすのにも、ガソリンを燃やしています。自転車、バス、電車をつかえば、自分の車でガソリンを燃やさなくてすみます。
また、クリーンセンターでは、ゴミを燃やしていますよね。物を大切にして、リサイクルしたり、ゴミを減らしたりすることで、燃やすゴミを減らすことができます。
もっと他にも、二酸化炭素を出さないようにするために、できることはあると思います。なにか思いついたら、教えてください。
大きくなったら何ができる?
エコ活動は、いま、皆さんができることもたくさんあるのですが、実は、大人になったら、もっともっとすごいエコ活動ができるようになります。
車も、ガソリンを燃やさないで、電気の力で走らせることができます。これが電気自動車です。また、木は二酸化炭素を吸って生きています。なので、木を植えることも大事です。
そして、これから新しい「発明」ができれば、二酸化炭素を空気の中に出さないようにできる可能性があります。二酸化炭素を地面に埋めたり、空気の二酸化炭素を吸い込むことができないか、研究がすすんでいます。
また、「二酸化炭素を出さないために、ものを燃やさないことが大事」とお伝えしましたが、地球温暖化にとっては、「植物を燃やす」ことは、石炭や石油を燃やすよりも“いい方法”です。
植物は、空気中の二酸化炭素を吸い込んで、成長しています。そのため植物を燃やしても、もともと空気の中にあった二酸化炭素が空気の中に戻るだけなので、“地球温暖化にとっていい方法”になるわけです。
「ものを燃やさない」で、べんりな生活をすることは、とても大変なことで、新しい発明が必要です。新しい発明をするためには、たくさんの勉強が必要です。
これから、大人になるみなさんにぜひ頑張ってほしいとおもいます。僕もみなさんと同じくらい、頑張りたいと思います。
今日、いろいろなことを学ぶことができたと思います。皆さんは、どのように感じているでしょうか。
地球温暖化で、何が困ると思いますか。これから、どんなエコ活動をしたいですか。大きくなったら、どんなエコ活動をしますか。地球温暖化を止めるには、どうしたらいいでしょうか。
ぜひ、皆さんの感じたことを教えてください。
授業を終えて
授業中にはたくさんの意見を聞くことができました。また、
「二酸化炭素はどのくらい小さいのか?」
「二酸化炭素をどうやって吸い込むのか?」
「地球市民が出す二酸化炭素の量はどのくらいか?」
など、素朴な疑問もたくさん上がりました。
日本人が1年間に出す二酸化炭素の量が、9トン、牛乳パックで約9000本の重さという説明には「やばい!」という驚きの声も。二酸化炭素が増える理由、二酸化炭素を出さないためにはどうしたらいいか、しっかりと伝わったように思います。
もっと地球温暖化について知りたい、エコ活動について知りたい、という授業の感想をもらうこともできました。
元気な子供たちの意見を聞くことができて、とても有意義な時間となりました。今後も、このような機会をできるだけ増やしていきたいと考えています。(終)
授業中も、積極的に手を挙げて意見を発表してくれました。
[掲載日:2022年2月7日]
文、スライド作成:横畠 徳太(地球システム領域)、岩崎 茜・前田 和(対話オフィス)