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これまでの活動

市民団体と公開講座を協働で開催!
千葉県船橋市「アースドクターふなばし」

市民が考える、地球温暖化と対策

 地球温暖化の防止策に、市民レベルでどう取り組むか-こんなテーマについて考える市民講座が千葉県船橋市で6月16日にありました。

 主催は、船橋市の市民団体「アースドクターふなばし」(木下肇・代表)です。

 私たち対話オフィスも全面的にバックアップし、当研究所の江守正多・副センター長(地球環境研究センター)五味馨・主任研究員(福島支部 地域環境創生研究室)が講師として参加しました。

 会場(定員200人)はほぼ満席。イベントは江守、五味の講演のあと、「アースドクターふなばし」などの市民団体のメンバーの皆さんを交えてパネル討論。会場からも質問が相次ぎ、盛り上がりました。

当日の会場の写真

当日の会場の様子。参加者の熱心な姿がとても印象的でした。

「地球」と「暮らし」、ふたつの視点から

 テーマは「ともに考えよう 地球温暖化と私たちの暮らし」

 温暖化は地球規模の課題ですが、一方で、温暖化を防ぐためには、私たちが日々の暮らしのなかで取り組む必要があります。地球というマクロな視点と、暮らしというミクロな視点の両方から考え、どんな行動ができるかを議論しました。

 初めに、地球温暖化の将来予測研究が専門の江守が、「温暖化の現状と未来」と題して、温暖化の仕組みや近年の異常気象との関係などを説明。そのうえで、2020年からの気候変動対策の国際的取り決めであるパリ協定について解説しました。

 パリ協定では、世界的な平均気温の上昇を産業革命(18世紀中盤)以前に比べて2℃未満に抑えるという目標があり、江守は「これを実現することは、今世紀末に世界の温室効果ガスの排出を正味ゼロにすることを意味する」と指摘。

 さらに「これは人類が化石燃料文明を卒業しようとしていることであり、そのためには、社会の『大変革』が必要だ」と話しました。

 身近な「大変革」の例としてあげたのが、分煙革命です。

 「今では想像できませんが、30年前はタバコは家庭でも職場でも、電車、飛行機などでも吸えたのです。しかし、受動喫煙の害が科学的に立証され、法律ができると、分煙を実施する方が(飲食店でお客が増えるなど)経済的にもメリットがでてきて、分煙という『大変革』が起こりました。

 パリ協定に世界が合意したということは、2℃未満という目標のために、化石燃料からの卒業という『大変革』に世界中が取り組み始めたことを意味します」と締めくくりました。

 さらに「これは人類が化石燃料文明を卒業しようとしていることであり、そのためには、社会の『大変革』が必要だ」と話しました。

江守さんの写真

江守副センター長(地球環境研究センター)。

 次の五味主任研究員の講演は、地球規模の話から一転して、「身の回りのエネルギー」です。

 タイトルは「暮らしと社会で取り組む地球温暖化対策」。五味はこれまで、各地の温暖化対策を研究してきました。

 講演のポイントは3つ、①家庭で使うエネルギー、②自治体での取り組み、③都市計画や電力などインフラ(基盤整備)の地域での取り組みです。

 まずは、1点目の家庭で使うエネルギーについて。

 ドライヤー、冷蔵庫、テレビなど種類によって、使用する電気はまちまちである点を説明しつつ、「家庭ごとに事情が違うので、温暖化対策も家庭ごとに考える必要がある」と指摘。

 そして、五味が取り組んでいる福島県新地町での事例を紹介しました。新地町では各世帯にタブレット端末を配って、家庭での消費エネルギーなどの情報を収集、家庭ごとに適切な省エネ方法をアドバイスするなどしたとのことです。

 2点目の自治体の取り組みについて、五味は、温暖化対策が幅広い分野に関係する点を強調しました。

 五味が参画した滋賀県での温暖化対策の場合、温暖化対策は交通、建物、森林などさまざまな分野に関係し、対策は130項目以上に及びました。ほかの自治体の場合でもおおむね100項目ほどになり、「実行は確かに大変なのです」と言います。

 同時に、「温暖化対策以外にも効果がある点(副次的便益)も忘れないでほしい」と五味は強調しました。温暖化対策に取り組むことで、大気汚染の改善、ゴミの量の削減、新たな雇用の創出などが伴う場合があるといいます。

 3点目の地域での取り組みでは、鉄道やバスなどの公共交通や電力システムなど大規模な整備が必要なものについて説明しました。

五味さんの写真

五味主任研究員(福島支部 地域環境創生研究室)。

市民団体のみなさんとパネル討論

 講演の後のパネル討論には、江守、五味の二人に加えて、次の4名の方がパネリストとして参加されました。みなさんそれぞれの活動紹介とともに、直面している課題についても率直に発言されました。

 寺園さんが所属する「アースドクターふなばし」は市内在住の千葉県地球温暖化防止活動推進員が中心の市民団体(会員30名)です。

 地球温暖化防止活動推進員は、地球温暖化対策推進法にもとづく仕組みで、全国の自治体などで住民を対象に啓発活動などを実施しています。

 山口さんの県地球温暖化防止活動推進センターは、寺園さんら活動推進員を支援しています。

 寺園さん、山口さんらの活動の中心は、温暖化対策について学習する「出前講座」で、「アースドクターふなばし」の出前講座は年間約80回にのぼります。

 寺園さんは、「アースドクターふなばし」の活動の課題について、こう話されました。

 「温暖化問題が深刻になるのは30年、40年先。問題に真正面から向き合うことになる世代、いまの中学生から30代の人たちにこそ、出前講座にきてほしい。しかし今、その世代の参加が少なく、頭を痛めている。

 また、パリ協定で、今後、社会の仕組みが変化すると思うが、新たな局面をうまく伝えられるプログラムを作りたい。そのために、国立環境研究所にも協力してほしい」。

 山口さんは「出前講座の参加者からは、温暖化対策について『必要なのはわかるが、やり方がわからない』との声がよく聞かれる。また、省エネ家電の買い替えを勧めても、高齢者からは『生きてる間に元がとれない』など消極的な声が多い」など、啓発活動を行動に結びつける際の困難さを指摘されました。

 また、「啓発活動の効果がなかなか数値などではわからず、推進員の草の根活動が行政から評価されない」との悩みも話されました。

パネリスト2人の写真

[左]寺園道雄さん(「アースドクターふなばし」事業担当)と、[右]山口幸一さん(千葉県地球温暖化防止活動推進センター事務局長)。

 岡田さんが事務局をつとめる船橋市地球温暖化対策地域協議会は、市内の市民団体、事業者、学識経験者、自治体など42団体でつくる組織で、船橋市の温暖化行動計画づくり、環境学習などで、同市との協働作業に取り組んでいます。

 岡田さんが直面しているのは、「市内の家庭部門で二酸化炭素の排出量が増加傾向にあること」です。

 船橋市では「環境にやさしい生活 18のアクション」と題した市民向けの行動計画を作り、実行を呼びかけています。岡田さんは「行政の計画を、どうやって各家庭の二酸化炭素削減の行動にむすびつけるか、どんな啓発が効果的かを考えています」と話されました。

 黒田さんが会長代行をつとめる船橋市生活学校運動推進協議会は、1964年に全国で始まった「生活学校運動」に取り組んでいます。暮らしや地域の問題に取り組むのが目的で、これまで「列車への禁煙車両の導入」「ごみの分別収集」などを取り上げました。

 2007年にはレジ袋削減の全国運動に取り組み、半年間で日本全体で870万枚(船橋市約7万6千枚)を減らしたとのこと。この全国の枚数を二酸化炭素に換算すると、サッカーボール2900万個分(体積)になるそうです。

 黒田さんは「これからも誰にでも無理なくできる行動を継続し、その行動がきっかけで温暖化といった大きな問題への関心がますます高まることを目指しています」。

 現在は食品ロス削減全国運動を展開中とのことです。

パネリスト2人の写真

[左]岡田 純一さん(船橋市地球温暖化対策地域協議会事務局/市環境政策課長)と、[右]黒田 洋子さん(船橋市生活学校運動推進協議会会長代行)。

課題解決へ、講師からのアドバイス

 パネリストの発言や、提起された課題について、講師の二人は次のようにコメントしました。

五味:温暖化対策の啓発活動に、子供たちにもっと参加してもらうことは、とても大事だと思います。

 温暖化対策には、長い時間がかかる。大きく変えるためには時間が必要なので、啓発活動は、小学生低学年、幼いころから始めるのがより効果的ではないでしょうか。そのための工夫が必要です。

 対策の効果をわかりやすくする、『見える化』することも大事です。家庭の電力使用量をその場でわかるスマートメーターという器具があり、もっと使用できないかと研究しています。

 さきほど、黒田さんが、レジ袋削減運動で減らした二酸化炭素は、『サッカーボール約2900万個分』とおっしゃったが、このような表現の仕方はわかりやすくて、とてもよいと思いました。

江守:みなさんのお話をうかがって、それぞれの場で、強い思いをもって、自分たちでできることに取り組んでおられることがよくわかりました。一方で、自分たちの行動がどのくらい効果があるのか、貢献しているのか、よくわからずに、もやもやした気持ちもお持ちなのではないかとも感じた。

 自分たちができることは実行するという姿勢と、大きいことは国や自治体に任せるという姿勢の2つに分かれがちですが、むしろ、自分たちの行動をもとに、国や自治体に対してどんどん意見を言っていかれることが大事かと思う。

 例えば、資源エネルギー庁はエネルギー基本計画のパブリックコメントを募集(6月17日まで)(※注1)しましたが、そこに、自分たちの意見を書いて送るというようなことでいいと思います。

 地道な活動に取り組みつつ、高い視点で興味を持ち続けていただきたい。

※注1 資源エネルギー庁のパブリックコメント募集についてはこちら(外部リンク)。

パネルディスカッションの様子の写真

質問は会場からも

地球温暖化について、「二酸化炭素などの温室効果ガスが原因ではない」という懐疑論をテレビなどで聞きますが、どう考えればいいのでしょうか?

江守:その質問は、各地の講演でもよく受ける質問です。太陽活動が原因ではないか、氷河期が間もなく来るので温暖化しないなどの意見です。

 太陽活動が低下して地球の平均気温が下がっても、二酸化炭素などによる上昇分の方が大きいので、太陽活動の影響は少ないなどと説明しています。

 これらの点について、当センターのニュースレター6月号で解説した記事(※注2)を発表していますので、ぜひそちらをご覧ください。

※注2 地球環境研究センターのニュースレター6月号はこちら

地球温暖化が進むと、数十年先には海面が上昇したり、大規模な台風、洪水などの異常気象につながったりするということを教えてもらいました。でも、まだまだ知らいない人が多いのではないでしょうか?

江守:温暖化の影響について、説明不足ではないかというご指摘だと思います。ひとつ紹介させていただきたいのは、『2050年の天気予報』という動画(※注3)です。

 私も制作に加わりました。活用していただければと思います。

※注3 『2050年の天気予報』の動画はこちら(外部リンク)。

温暖化対策には、自治体、産業界、研究者、市民など様々な立場の人たちが関係しているが、みんなが一緒に集まって話し合うにはどうすればいいか?

五味:本日の企画がまさにそういう場所だと思う。

 また、本日のパネリスト岡田さんの船橋市地球温暖化対策地域協議会も、市民、事業者、自治体などが参加されており、好例ではないでしょうか。

 関係者が一堂に会するという機会がなかなか少ない。すべての場所にいる人全員が協力することが大事だと認識しています。(終)

「アースドクターふなばし」のみなさんとの集合写真

今回一緒に講座を企画した、千葉県船橋市の「アースドクターふなばし」のみなさんと。

[掲載日:2018年7月5日]
取材、構成、文・冨永伸夫(対話オフィス)

参考関連リンク

●資源エネルギー庁「エネルギー基本計画について」(外部リンク)
https://www.enecho.meti.go.jp/category/others/basic_plan/

●国立環境研究所「本当に二酸化炭素濃度の増加が地球温暖化の原因なのか」
http://www.cger.nies.go.jp/cgernews/201806/330006.html

●世界気象機関(WMO)「2050年の天気予報(NHK)」(外部リンク)
https://www.youtube.com/watch?v=NCqVbJwmyuo


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