1. ホーム>
  2. これまでの活動>
  3. サイエンスアゴラ2024「すごろく『気候変動適応への道』で、“未来の環境”を考えよう!」
  4.  

これまでの活動

サイエンスアゴラ2024「すごろく『気候変動適応への道』で、“未来の環境”を考えよう!」を開催しました

はじめに


 あらゆる人に開かれた科学と社会をつなぐ広場として、毎年開催されている科学技術振興機構(JST)主催の“サイエンスアゴラ”。

 今年は10/26(土)-27(日)に東京・お台場で開催となり、国立環境研究所から気候変動適応センター×対話オフィス(社会対話・協働推進オフィス)が参加し、すごろく体験と対話を交えたワークショップを実施しました。

 事前申込みいただいた小学生から大人が集まり、各テーブル4人ずつの3グループにわかれて、気候変動に関連したすごろくを体験しました。

 その後、当研究所の研究者が各テーブルのファシリテーターをつとめ、すごろくの中にあった出来事を振り返りながら、未来社会について互いの考えや現状などを話し合い、“対話”を通して学びを深めました。全体の司会は、対話オフィス コミュニケーターの渡邉陽子が務めました。

 さまざまな気づきや意見がありましたので、当日の様子を紹介します。

ステージの写真

当日の会場の様子

ゲーム紹介「すごろく『気候変動適応への道』」


今回使用したすごろくは、気候変動適応センターが科学的知見をベースに作成した“遊んで学べるボードゲーム”です。マスの内容には、気温上昇が起こった仮想の未来社会で「変化する環境に備える『適応』」と、「原因となる二酸化炭素(CO2)を減らす『緩和』」の2つにまつわる、実際に起こり得そうな身近な出来事が書かれています。各マスの内容を通して適応、緩和について学びながら、手元にあるポイントを上手に使ってゴールを目指すゲームになっています。


3つのグループですごろくを体験!


 まずは、すごろく体験の前に、気候変動についてどのような対策が考えられているのか、気候変動適応センターによる動画A-PLAT KIDS「こんにちは、適応策」(外部リンク)を使って紹介しました(※注1)

※注1 気候変動“適応”とは?
今後気温の上昇が予測されている気候変動では、その影響が食や気象災害、健康などの面であらわれてきています。新しい気候に合わせて生活を変えたり、備える考え方を『適応』と呼びます。例えば、高温に強い品種の米に変えていく、堤防を高く整備して川の氾濫を防ぐ、運動は涼しい時間帯を選ぶなど、具体的な対策が考えられています。


ワーク①:【体験】すごろく『気候変動適応への道』で未来の適応を目指そう!

 気候変動の「適応策」というものがあることを知った後、各テーブル4名ずつに分かれて、すごろく体験を開始しました。

 まずは順番にサイコロをふって駒を進め、マスに書かれている気候変動にまつわる身近な出来事に一喜一憂しながら、ゴールを目指します。途中、もらったポイントを“適応カード”や“保険カード”と交換することができたり、マスの出来事で増減するCO2排出量ですごろくの世界のCO2インジケーターが動いたりします。

 すごろくの後半では、産業革命以前の平均よりも1.5℃の上昇で抑えられた世界か、はたまた4℃まで上昇してしまった過酷な世界の2つのコースが待ち受けており、直前のマスにたどり着いたときの各グループのCO2インジケーター次第で、進むコースに違いがうまれます。

 じっくりとCO2を減らそうと試みた大人のテーブル以外は、無事に全員ゴールにたどり着き、すごろく体験を終了としました。

~参加者の事前のアンケートから~
事前に回答していただいたアンケートでは、“気候変動”に対して「簡単には解決しなさそう」「一人で何かしても、あまり効果があるとは思えない」といったイメージがあり、「子供の頃は猛暑日という概念すらなかった(中略)人が住めなくなる地域も出てくるのではと思います」といったコメントなどがあったことから、気候変動による環境の変化の中で、自分たちがどのような選択をすればよいか、前向きに良い未来を想像できていない様子がうかがえました。

 体験のあとには、すごろく『気候変動適応への道』の開発担当者 濱さん(気候変動適応センター)から、それぞれのマスに書かれている出来事は、「気候変動に備える『適応』」の成功と失敗、「CO2排出を減らす『緩和』」の成功と失敗であり、背景が色分けされているという解説がありました。

話題提供のスライド

 次に、すごろく体験を実社会に置き換えて実感をもって考えるために、各グループのファシリテーターを務めた研究者3名から、今の環境がどのような状況か、またどんな観点で未来を考えると良さそうかについて簡単に紹介しました。

国際環境法などの研究に取り組む久保田主幹研究員
すごろくの最終ブロックにある大きな分かれ道、1.5℃コースと4℃コースの違いについて、最新情報では「今世紀末までに工業化前と比べ世界平均気温が最大3.1℃上昇するとの見通し」と言われている。どれくらい違う世界なのか、すごろくの出来事の内容も今一度よく見てみてほしい。

熱中症などの研究に取り組む大山研究員
昨年2023年や今年のような暑かった年は、9-10万人くらいの人が熱中症で救急搬送されている現状がある。子どもたちに身近な話では、部活などの現場でも、年間数千件の熱中症が発生している(※注2)。これから温度が上がっていくと、もっと極端な状況として、救急車が足りないといったことが起きる可能性がある。西日本などでは、部活が半年くらい制限されるような研究結果も出てきている。
※注2 大山さんのプレスリリースはこちら

■大気化学が専門で、すごろく発案者向井客員研究員
すごろくの中では“適応カード”が7種類あるように、1.5℃上昇コースの未来環境と、4℃上昇コースで、どの分野でどういうことが発生するかという内容が違う。実生活でも適応した暮らしができるように、どのようなことにいち早く適応しないと、生活に大きな損害が起こるかということを考えてみてほしい。


ワーク②:【聞こう・話そう】わたしのくらしの中の気候変動『緩和』と『適応』って?

 変化する未来の環境での暮らしを考えるヒントを共有したところで、テーブルごとに一緒に考えることにしました。ここでも各グループの研究者がファシリテーターとなり、ワークを進めました。

 参加者は、どんなすごろく体験だったか、まずは自分が通ったマスの出来事を思い出しながら、“自分もできそう/おもしろい”と思ったマスに〇を、“難しい/よくわからない”と思ったマスに△の印をつけました。

 そして、印をつけたマスの内容をもとに、「自分には何ができそうか?」について付箋に書き出しました。

 次に、自分にもできる“適応”について考えてみたところで、それを実現するために「社会や周りからどんな助けがあるといいか?」について考えて書き出し、グループの皆で共有しました。参加者からは、具体的な案が出たり、お互いの意識を共有するような対話が行われたりしました。

イベントの様子の写真

すごろくのマスにチェックを入れた様子

イベントの様子の写真

実際に子どもたちからでたアイデア

●子どもたちの回答
・車でも行けるけど、電車の旅を楽しむことにした。車をあまりに使わないようにしている。
・その日のお天気に合わせて、いろいろ持っている服の中から工夫して調節したい。
・水害に備えて地域や学校で避難訓練もしてるし、いろんな施設で避難訓練をしてくれるといいな。
・学校の冷ぼうを弱くしてむだな上着を減らしたい。
・人によってどういうふくがいいか、おしえてほしい。

●大人たちの回答
・東京都民なのですが、補助金がでたので太陽光パネルをつけました。
・代用肉ならいいけど昆虫食は嫌です。こっそりだましてくれるならいい。
・ステーキを鶏肉に変えたくはない。
・高温耐性米をもっと美味しいよとアピールしよう。
・(気候変動について)現状、どのような状況になっているのか、分析して伝えてくれるツールや、専門家から話を聞ける機会が欲しい。
・(気候変動について)義務教育の内容に取り入れてほしい。
・継続的に温暖化の負の側面をメディアが発信すべき。
・何をすべきかわかるような情報発信をしてほしい。
・環境対策の助けとなるような補助金が必要。

 「気候変動適応」という言葉を知らなかった方もいる中で、参加者からは、既にやっていたことに気づいたり、これなら自分にもできそうといった言葉がたくさん出てきました。また、さまざまな新しい対策が考えられる中、大人チームでは、微妙な選択肢について受け入れられるかといった本音を共有し合う場面も印象的でした。

 子どもたちチームのひとつは、1.5℃コースではなく4℃コースに進むとどういう世界なのか、振り返りの時間を使って、より温暖化が進んだ世界へのすごろくの旅を体験していました。

 ワークショップ全体では、気候変動対策を社会が変わる機会とポジティブにとらえ、社会を構成する皆で、自分には何ができるかや、今の生活で維持したいこと、どんなふうに変わってほしいかなどを共有する場にすることができました。

 またすごろくのマスの中の出来事について、下記のような疑問や質問もうまれ、研究者が解説したり、他の参加者と一緒に考えたりしました。

<難しい/よくわからない、で出てきたこと>
・なぜニホンジカの数を制限しないといけないの?
・なぜステーキを食べちゃいけないの?
・「(マスの内容)20年間洪水に遭っていない」で損失(ポイントがマイナスに)が出るのはなぜ?
・炭素税の導入でどう変わるのか?税収が何に使われるか気になる。


おわりに


 最後に、向井さんがまとめのコメントを参加者に伝えました。

「今日は順位がついたけれども、人生、どうなるかわかりません。気候変動でどういうことが起こるか、科学的にもまだまだわからないことがあるので、『やっぱりちゃんと自分で考えておく』ことが大事です。追伸、お腹空いたんですけども、牛肉はなるべく食べないように!(笑)」

 また参加者からは、「すごろくを楽しみながら気候変動について考えを深められた。」「+4℃の世界では、損失が大きい傾向なのがわかった。適応することも大切だが、食い止めることもより大切だと感じた。」「CO2を出さないためにはどういうことをするのか、自分ではなにができるのかを知ることができました。」といった感想をいただきました。

ステージの写真

すごろく体験時の様子。たくさんの方にご参加いただきました。


 今回使用したすごろくは、気候変動適応情報プラットフォーム(A-PLAT)で公開されています(※注3)。家庭や学校など、どなたでも自由に利用できるコンテンツですので、ぜひご活用ください。(終)

※注3 すごろく『気候変動適応への道』はこちら。学校での実践例、ワークシード、マスの出来事の解説なども紹介されています。

[掲載日:2025年1月17日]
構成、文・渡邉 陽子/写真:前田 和(ともに対話オフィス)


イベントに参加した国立環境研究所のスタッフ

気候変動適応センター 気候変動適応戦略研究室 大山剛弘 研究員
社会システム領域 地域計画研究室 久保田泉 主幹研究員
地球システム領域 物質循環観測研究室 向井人史 客員研究員
気候変動適応センター 濱順子 高度技能専門員
社会対話・協働推進オフィス 前田和 高度技能専門員
社会対話・協働推進オフィス 渡邉陽子 高度技能専門員
※当日は、上記のほか気候変動適応センター 上田健二 副センター長も参加協力しました。

参考関連リンク

●CCCA「A-PLAT KIDS「こんにちは、適応策」」(外部リンク/動画)
https://www.youtube.com/watch?v=2vDjK5ADzDk

●国立環境研究所「運動部活動における状況に応じた熱中症対策の重要性」
https://www.nies.go.jp/whatsnew/2024/20241119/20241119.html

●国立環境研究所A-PLAT「すごろく『気候変動適応への道』」
https://adaptation-platform.nies.go.jp/ccca/activities/sugoroku/index.html


ホーム > これまでの活動